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「やり直しの近代文学」まえがき
「やり直しの近代文学」まえがき
それ本気で言ってます? よく調べました?
江藤淳が間違っていることに気が付いたのはそんなに昔のことではない。そもそも間違っているかどうかというようなことなど考えず、ただ面白く読み流していたということか。しかし漱石没後百年を記念したムック本が次々刊行されていた時期にふと、「おや、この人は夏目漱石が読めていない。この人もだ」と気が付き、手に入る限りの夏目漱石論を図書館で取り寄せて片っ端から疑いの目で、間違っているかどうか確認してみた。
結果として誰一人夏目漱石作品を正しく読めている人は見つけられなかった。
しかしそもそも間違っているということはどういうことか。多様な解釈の可能性があるのではないかと自問しながら、その確認の作業はついに岩波書店の『定本 漱石全集』の註解を校正するという、いささかまともではない作業にまで至った。註解を校正するとはさすがに無理があるのではと思ったが、実際に註解は間違っていた。それ本気で言ってます? よく調べました? ということが平然と書かれている。
当然漱石論者の中にも2019年版の『定本 漱石全集』の再読、精査に至って自著の書き直しを済ませた人も見受けられないことから、誰にケンカを売るという魂胆も何もなく、ただひたすらに意味のある作業として近代文学のやり直しを始めたいと思う。そもそもお前は何の資格があってそんなことを書いているのかと問われれば、いつも私の答えは同じだ。書く資格は、書いている文章そのものの中にある。
小林十之助
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