岩波書店『定本漱石全集』注解を校正する71 夏目漱石の『坑夫』をどう読むか⑦ 箆棒め、剣突を喰らった一夜半日の画
箆棒め
この「箆棒め」に岩波はこう注解をつける。
三点ばかり引っかかる。
まず「箆棒め」には「ばか、あほう」ほどの強い意味はないのではないか。「こんちくしょう」「てやんでい」のように話し言葉の中でリズムを生む口癖のようなもので、否定語には間違いないが、時に明確な対象を欠いているような使われ方もある。
また必ずしも男にばかり向けて使われた言葉ではない。さらに、江戸言葉とするのはいかがなものか。「箆棒めい」に「べらんめい」のルビがあることを確認してもらいたい。この「箆棒めい」は江戸言葉で、「箆棒め」自体はこのように、
茨城県、静岡県、愛知県でも使われていたようだ。
剣突を食った
岩波はこれをやはり江戸言葉とする。主要な国語辞典にその趣旨の文言はない。
これもどうも江戸言葉とまでは限定されないようだ。
一夜半日の画
岩波はこの「一夜半日の画」に対して、こう注解をつける。
あるいはで分割された「ひと晩だけ」と「一日の半分だけ」は本来分けられるべきものであったのだろうか。ここはまだ二晩にはならない『坑夫』のこれまでの経過を「一夜半日の画」と振り返ったところではあるまいか。
[余談]
Chat GPTが凄いことになっている。要するに後は使い方次第というところ。勿論こうして日本語の細かいところをやっている人間からするとまだまだこれからということになるのだろうけれど、平べったい物書きにはもう居場所はないのかも。
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