芥川龍之介の『彼 第三』をどう読むか② 「僕」は芥川ではない?
いや、だからどう読むも何も『彼 第三』という作品は見つからない。
しかたがないから、『愛読書の印象』でも読もう。
なるほど、高等学校を卒業する前後に「ジヤンクリストフ」を読んだのか……。
え? おかしい。おかしい。
たしか「ジァン・クリストフの第一巻」は『彼』で燃えたはずだ。「彼は六高へはいった後、一年とたたぬうち」「かれこれ半年の後」「翌年の旧正月」という経過をたどると、「僕」が高等学校を卒業する前後にはもう「ジヤンクリストフ」を読むことはできなかったのではなかろうか。
『愛読書の印象』の初出は大正九年、この「此間」とはその頃の事だろう。
つまり、
・『彼』の「僕」は芥川龍之介ではない
・『愛読書の印象』の語り手は芥川龍之介ではない
・「ジァン・クリストフ」は「ジヤンクリストフ」ではない
・芥川は『彼』の脚色の為に「ジァン・クリストフ」を燃やすという演出を加えた
・芥川は『愛読書の印象』を面白くするために『彼』を書いた
・『彼 第三』にその種明かしがある
・小林十之助が『愛読書の印象』か『彼』を捏造した
このいずれかが真実なのだろう。
ごく真面目な話『ジャン・クリストフ』の第一巻の端本を見つけることはなかなか困難なので、買い直すなら第二巻から十巻を持ちながら、全部買い直すことになる。流石にそんな散財は出来まい。しかも『愛読書の印象』にはわざわざ買い直したというニュアンスがまるでない。すると一番可能性が高いのは、
・小林十之助が『愛読書の印象』か『彼』を捏造した
この説だろう。いやいや。小林十之助は私だ。私が捏造する筈がない。やはりあり得るとすれば、
・「彼 第三」にその種明かしがある
これだろう。早くその種明かしが知りたいものだ。
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