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【読書感想】『動物会議』/人間っぽい動物から言われるからこそ刺さる説教

エーリヒ・ケストナーの絵本『動物会議』(1949年刊行。日本語版は池田香代子訳、岩波書店より)を読んだ感想です。


 この物語に出てくる動物たちはとても人間的である。新聞を読んだり、美容院に行ったり、歯医者に行ったり、服を着たり、そして会議を開いたり。

 そのような「人間っぽい動物から言われるからこそ刺さる説教」がこの物語の核だ。

 なぜ人間らしさが必要なのだろうか。それは著者エーリヒ・ケストナーがファシズムに強く反対し自由主義や民主主義を強く擁護していた人物だったからではないか。

 民主主義の根幹は「話し合い」である。動物と人間の話し合いを表現するには、動物がより人間らしくある必要があった。物語前半のかなりの部分を割いて、人間らしい行動を動物たちに取らせている。このことが動物と人間との話し合いを実にリアルに、そして緊迫感を持つものにしている。

 動物たちが話し合いの結果として求めたものが「絶対的平和=永遠の不戦」の誓いである。人間にとって非現実的で不都合な誓い。人類史において戦争がなかった時代などない。
 その不可能な誓いをさせるために、動物たちもまた「武器」を行使している。世界中の子供を神隠しするという恐ろしい力である。物語では柔らかく表現されているが、子供を消すという行為は恐ろしく残虐な行為。その武器に対して人間は恐れおののき、誓約書にサインをする。
 この部分に関しては賛否両論あるだろうが、「民主主義=話し合い」のみで絶対的平和を得ることは難しいという著者の苦しみの表現だったのではないか。

 この物語は現代の私たちにも強烈な説教として突き刺さる。今に置き換えればロシアとウクライナの戦争であり、環境問題である。
 世界では多数の会議が開かれている。G7、ダボス会議、COP…。それにも関わらず戦争は無くならないし、環境問題も遅々として改善しない。「将来世代=子供たちのため」という思想は表面だけで、大人の理由で経済発展を最優先にしているためだ。ケストナーがこの本を書いた時代と変わっていないことに気づかされる。

 私たちは「子供たちのため!」という声に真に向き合えるようにならなくてはいけないと思った。


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