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MX-30(EV) すべては気持ちよいHMIのために

2019年10月の東京モーターショー。まだ世の中に「原因不明のウイルス肺炎」が知られる前、台風に直撃されて大雨の中、奮発して購入した先行入場チケットの元を取るために訪れた東京ビックサイト。その会場で、尖ったスペックがあるわけでもなく、観音開きドア(とっても便利な一瞬以外は、たいてい不便・・・)なEVはステージの上をグルグル回っていました。でも、不思議に心に刺さったんです。

エンジンとモーター

もともと、ガソリンエンジンの制御ってとっても乱暴なフィードバックですよね。スロットルを開けると空気が一杯入る、空気の量に合わせてガソリンを吹いてあげて圧縮する、火花をつけると爆発してビストンを押し下げる、その力でまた空気を吸い込む。

どれだけアクセルペダルを踏むと、エンジンの出力がどのように増すのか、人間が学習しなくちゃいけません。その間の相関をどのように調整されているかにより粗削りだったり、早開きだったり、燃費が良かったり悪かったり、、、。そして、エンジンの回転を駆動力に伝えるためのトランスミッションも、ギヤの組み合わせを変えてみたり、トルクコンバーターを入れてみたり、金属チェーンにすり鉢を押さえつけて比率変えてみたり、涙ぐましい知見の組み合わせで出来ている。

でも、モーターはフィードフォワードできます。今の状態は、どのように駆動しているかと、どれだけ外部からトルクが入っているかで決められる。アクセルペダルはもはや「ガス」ペダルではなく、機械への意志を伝えるポテンショメータに過ぎないわけで、人間の意志も加味して、次の状態を作り出すための制御を組み立てる。

何でもできるってことは、「良い」制御を考え出さなくちゃいけない。電池がどうだとか、インフラがどうだとか、そんなことは社会課題や技術課題として何とかしてもらうとして、人として機械に接している制御がまったく違う。この制御を自分でやるのか、サプライヤーに任せるのか、エンジンっぽい世界観を引きずるのか、ガツンとトルクを出してモーター「らしさ」みたいな演出をするのか。

どのように考えるのかが一つキーなのかなって思います。

MX-30(EV model)に乗せてもらう

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MX-30(EV model)の国内販売目標は500台です。一都道府県あたり、月1台も売れないと思われているこの車両を地元に試乗車として導入頂けて、本当にありがたい。EV-30のエンジンモデルはすでに試乗させて頂きましたが、正しい車でしたが、あえて何か言うことは何もなかった。

スタートスイッチを入れて、イルミネーションの控え目なおもてなしの後、不思議セレクトレバーを操作して、ゆっくりアクセルペダルを踏みこむ。駐車場の中で車が数メートル動く、アクセルペダルを戻す、車が「すっ」と減速し、歩道をゆっくり跨ぐ。

いやー、もういいです、分かりました。

エンジンってものは、回り続けるためにエネルギーを貯めています。次のサイクルのために、今のサイクルの力を繋がないといけない。減速するってことは、空気の量を減らし、ガソリンを吹かないようにして、前のサイクルのエネルギーを次のサイクルでは減らしてあげるってこと。そういうフィードバックの中で味付けがある。でも、モーターは全然違う。

MX-30の制御は素晴らしい。本当に意志のまま、機械をフィードフォワードする制御が人の思いとリニアに繋がる。この感じ、最近味わった、、、あ、そうだ、MacBookのm1モデルと一緒です。まるで機械が操作を先読みしてくれているような感じ。最初なのに頑張ったな、参ってしまう。

といいつつ、ちょっとだけ周りを走ります。アクセルを入れていくと、「シュワーン」と加速していきます。モーターの音は全然分からないけれど、速度が乗っていっている事が感覚的に感じられる。アクセルを抜くと、綺麗に減速Gが立ち上がって、徐行レベルまでシームレスに速度が落ちる。車の重さがちょうどいい、クランク路を走ると、ロールセンターがめっちゃ低くてラインを綺麗にトレースできる。ガソリンの車の「ちゃぷんちゃぷん」言うような感じが全然なく、すべてが「すっ」と動く。畳の上で、綺麗な作法で動くみたいな、控え目で、完璧志向で、とっても日本的。

こんな素敵な機械

お値段450万円。高い安いでいったら高いですよ、電池の調達力は規模と投資で決まってしまうわけで、数万台レベルの生産台数でどうにかなるもんでもなく、黒船テスラは垂直統合でサプライチェーンを再定義しちゃっているし、自家用自動車の市場なんて明らかに転換期、今後どうなっていくのやら。

でも、オジサン車好きとしては思っちゃいます。この制御をガソリンエンジンで作るのって、マルチシリンダーにして贅沢するか、モーターと組み合わせるしかない。この乗り味を作るには、エンジンやらマウントやらオイルやら冷却水やらガソリンやら、ぐにゃぐにゃ、ちゃぷんちゃぷんする奴らを全部排除してやるしかない。

ピュア電動の心地よい制御、優れたシャシー、許せる重量の電池、そして、そんな車両の市販を可能とする唯我独尊なマネジメント。

MX-30(EV model)は、優れたHMI実現のためにすべてリソースを注ぎ込んだ車でした。これはマツダでしかあり得ない。

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