【登記】登記と吉日と日付問題

初めに申し上げますが、私は吉日といった迷信は一切信じてません。しかし、登記は吉日に多く行われるという現実は確かに感じます。お坊さんが(法事の予定が入らないように)大安の日に休業を開催するのと同様に、法務局職員も大安の日は休暇を取るのを避けています。


・商業法人登記の申請が多くなる日は?
「大安」だとか「一粒万倍日」だとか「寅の日」の吉日は登記申請が多くなる傾向があります(特に会社設立)、会社を設立するくらいの人ですから、ゲンを担ぐのでしょうね。また、月初は会社設立が多くなります、これは、月単位で会計を比較する都合でしょうか。

・不動産登記の申請が多くなる日は?
月末や四半期末は銀行の営業成績等の都合なのか、登記申請が急増しますね。
また、固定資産税の請求書は1月1日の所有者宛てに届くものですから、「年内に所有権移転を終わらせたい」「年内に建物滅失をしておきたい」という事情があり、年末はかけこみで非常に登記申請が多くされます。
また、不動産の評価額は年度単位で改正されるため、年度末にも登記申請が多くされますね。新年度を迎えてしまうと不動産の評価通知書を取り直さなくてはならないからです。
他には、4月1日は住所移転の登記が多く出されたり、4月の20日前後は抵当権抹消が多くされたり(住宅ローンの完済日になりやすい)、お盆や正月明けは相続登記がされやすい(親族のハンコが得られやすい)といったこともあります。
まぁ、月中は落ち着いているということです。

我々法務局職員は、吉日に積み上がった申請書類を平日にちょびちょび片づけていく、そういう繰り返しをしています。忙しいときに来庁される一般の方には、満足のいただけるような対応をすることは難しくなります。法務局には混雑期を避けて行くのがおすすめです。

そんな事情がある登記ですが、登記簿に記載される日付について質問されることが多いので、少しまとめておきたいと思います。

・登記簿に記載される日付
①商業法人の登記
商業法人の登記では、一般的に登記事項の設定・変更日と登記日が登記されます。「6月20日取締役A就任、6月25日登記」といった具合です。前者は申請書に記載した「現実に事象が起こった日」(役員選任なら、株主総会で役員に選任され就任を承諾した日)が記載され、後者は「法務局に申請書を提出した(法務局の営業)日」が記載されます。
登記は一般的に申請書提出から受理まで数日間の時間が掛かるのですが、後者の登記の日は申請日に遡って記載されます。申請の補正(手直し)があっても申請日は変わりませんが、申請の取り下げ(やり直し)があれば申請日が異なることになります。
商業登記では「会社設立の日」がとても重要視されるのですが、残念ながら会社設立の日は「登記の日」です。何が言いたいのかというと、会社設立の日を1月1日にするのは不可能(祝日なので)ということです。経営者としては「商売初めの日は1日にしたい」という需要があるのでしょうが、仕組み上は「1日が平日の月でないと商売初めの日を1日にできない」ということになります。
これは「会社設立の第三者対抗要件は登記申請だから、会社設立日は登記の日とする」という理由があるのですが、実際に働いている身としては1月1日会社設立を認めてあげても(例えば登記の日を併記する方法で解決できるのだから)良いんじゃないかなと思っていますが、現在の取り扱いではそうできません。結構な数の不満足のご意見をいただくポイントですね。

②不動産の権利の登記
不動産の権利の登記も、基本的には申請書に記載される「登記原因の日」と申請書を提出した「登記の日」が記載されます。受付番号令和3年5月13日受付第12345号原因「令和3年5月13日売買」といった感じですね。商業法人登記同様、法務局側の処理が遅れても、登記の日は申請日に遡って記載されます。
一般に、抵当権設定の登記申請日は融資実行日と同日であるのが好ましいとされています。ですから、司法書士に抵当権設定の登記を後日になってから取り下げるように依頼することについては、猛烈な反対を覚悟しなければいけません。

③不動産の表示の登記
不動産の表示の登記は以上の登記とちょっと異なります。というのも、表示の登記の登記の日は申請日とは異なるからです。
「令和3年5月14日新築」の登記を5月14日に申請しても、登記の日は5月15日だったり、それよりも後の実際の処理日が記載されます。より正確に言えば、法務局が実地調査を終えた日を登記の日としていることが多いです。

・「建物表題・保存・設定が連件でできない」問題
以上の取り扱いが厳密に行われている結果、不動産の登記ではとある問題が発生します。建物を新築した建物表題登記は表示の登記なので、登記完了日が法務局の都合により後ろ倒しになります。建物表題の後にされる所有権の保存、抵当権の設定登記は権利の登記なので、登記完了日は申請の日に遡ります。そして、登記の日が齟齬するのはよろしく無いので、建物表題の登記の日(法務局の調査完了日)までは所有権の保存、抵当権の設定の登記は出せません。結果として、超密接な登記であるにも関わらず、建物表題・保存・設定の登記は連件で申請することが事実上できません(申請日に建物表題の調査が終われば理論上可能です。)。住宅ローンを借りて建物を建てた人や銀行、司法書士は法務局の都合によって、所有権保存の登記や抵当権設定の登記の日程を伸ばさなければならないのです。これはちょっと現実社会に配慮していない仕組みだと思いますね。表示の登記の登記の日も遡るようにすれば良いだけの話なのですが、現在の取り扱いではできません。

・一方、農業委員会の「地目変更、促進法売買」の嘱託登記は連件でやれる法務局が多い
一般の方には馴染みがない登記ですが、農業委員会が農地売買に関与してする登記申請(嘱託登記)で「農業経営基盤強化促進法による売買の登記」というものがあります。これは権利の登記です。地目を原野から畑にするといった地目変更は表示の登記です。これも、密接に関連した登記です。
地目変更の登記と促進法売買の登記も、上述の理屈で言えば連件ですることは事実上困難です。しかし、これの連件申請に応じている法務局は多い(地目変更の調査日を無理やり申請日に遡らせる方法をとる)のではないかと思います。理由はおそらく農業委員会への配慮です。一般の方や銀行、司法書士には配慮をしないのに、農業委員会という公的機関に配慮するのは、ちょっとずるい所だなと私は思っています。

たかが日付の問題なのですが、登記簿という法人・不動産の履歴書に記載される日付には色々な意味があります。登記簿を見る機会があれば、その日付にも着目して観察してみると面白いかもしれませんね。

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