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リーマショックがあった直後の就職担当教授、奮戦と悲喜こもごも

(はじめに)


 
私は今(2010年1月)、リーマンショックのあった直後の2008年10月から、本学で学生さんや大学院生の就職支援を担当している教授です。私は丁度自分が学生の時の1973年10月にオイルショックがおこりました。このオイルショックの後数年間は、戦後最悪の就職難と云われました。その時、就職に大変苦労した私が、35年後、今度はリーマンショックのあった直後の学生さんの就職支援を担当をするとは、なんという運命のめぐりあわせかと思いました。以下の文章は、今回のリーマショックあった直後の私、就職担当教授の奮戦と悲喜こもごもの記録です。もしも、今度またオイルショックやリーマンショックのようなことが起こった時に、皆様のご参考になればと思い書きました。
 

1. 私の大学の研究室の教え子で、今、〇〇会社で活躍している□□君への私の電子メールから


 
 (以下、貴君の電子メールに返事を書いていたら長くなりました。長いので、後は気が向いた時にゆっくり読んで下さい。なお、文中差し障りがあるところは伏せ字○○にしていますが、気にせず読んでみて下さい。)
 

1-1.  御社の○川さんがリクルーターとして私のところへやってきました


 
 今年(2009年)4月に御社に女子の院生1名、○川さんを採用して頂いています。先月(2009年11月)、その彼女が私の学部へ、来年度(2010年度)の採用の為リクルーターとしてやってきました。その時の話によると、御社の採用人数が例年40名くらいですが、今年と来年はそれぞれ10名と大幅に少なくしていると聞きました。それで、今のM2(修士課程2年生)の男子学生が、○田研から今年3月ごろに御社を受けに行って、○田研出身者として初めて、御社に落とされてしまいました。○田研出身者は今まで落とされたことがないのに、優秀な彼でも落とされたことや採用人数が激減していることから、今年のM1(修士課程1年生)は御社を受けるのをためらっています。今年(2009年)4月に入社した○川さんの学年は大変就職状況がよかったのですが、今のM1, M2(修士課程1、2年生)は、35年ぶりの大不況に見舞われ一転して大変な厳しい就職状況となりました。その発端であるリーマショックあった直後の昨年の2008年10月から、私は就職担当委員をやっています。今年1年の私の最も大きな出来事は、この就職担当委員として奮戦したことです。
 

1-2. 本学部の就職内定状況


 
 今年私は○○学科就職担当委員として、大変苦労はしましたが、最終的に○○学科の就職内定率は98%でした。M2は33名全員内定、学部4年生は10名就職希望者中9名が内定、1名未定です。この1名は自主留年する予定です。私は、幸か不幸か35年前の大不況の経験者ですので、大不況になった時にどのようなことが起こるか事前に判っていてその対応をとったため、○○学科では、内定状況が非常にいいですが、他の学科は現時点で85%くらいで、○○学部全体で就職未定者は20名ほどいます。全国的には大学生の内定率が70%ですからまだいい方といっていいかもしれません。
 

1-3. 私の経験から言って、若者が就職が決まらないことくらいつらいことはない


 
 就職担当委員の私のところへ、青い顔をして相談にきた学生の話を2時間3時間と聞いてやることもしばしばで、話を聞いて泣けることもありました。話を聞いてやらないと変なことを考えてしまうといけないので、ずっと聞いてやるのですが、そのうち顔の表情も良くなり、私のアドバイスも耳にはいるようになるという状況でした。特に女子学生は成績が上から5番以内でも、10社も20社も落とされるので、めいってしまい、電話口で泣かれたこともあります。私も同じ年ごろの息子や娘がいるので大変身につまされました。
 

1-4. 不況になると特に女子学生の就職が真っ先に困難になる。私も泣いた○○さんの例。



 就活先から、私に電話があり、「○○社はお父さんのコネも使い最終の4次面接まで行ったので、もう大丈夫、内定がもらえると確信しています。しかし、人事の人が3月31日までに結果を知らせると言ったのに、今日4月1日になっても連絡がありません。先生から聞いてもらえませんか。」「いや、それは推薦状を書いた君の研究室の教授が普通することだよ。」「○○先生、怖いんです。」「そうだな。俺も○○先生怖いなあ。じゃあ俺から聞いてあげるよ。」そこで、その会社に電話したところ、人事担当者は入社式に行って留守ですので、後ほど必ず○田先生のところへお電話しますとのことでした。それから4時間位して電話があり、「○山さんは非常に良い人でしたが、最終的に残った方々と比べまして・・・、縁がなかったということで御了解下さい。」これは、最終的に残った同じレベルの男と女を比べると、男の方をとるということだなと私は直感しました。こういう結果の時の電話は大変しづらいものです。就活先の彼女に電話をかけ、「・・・ということで縁がなかったということだった。」という私の電話に、電話の向こうで絶句して、泣き声が聞こえるのです。期待していただけにショックが大きかったのでしょう。こちらだって、同じ年ごろの娘がいるから泣けてきます。消え入るような声で「有り難う御座いました。」といって電話を切った直後、私は、胸騒ぎがして変な気を起こしちゃいけないと思い、すぐに電子メールで彼女に、「○○という会社も今求人にきているから、出しなさい。また、大不況になった時は、20社や30社落ちても平気でいることだ。君が悪いのではない、今の経済情勢がそうしているのだから、絶対に落ち込んではいけない。」と書いて出しました。それから1時間くらいしてから、「先生の優しいお言葉に、涙が出ました。がんばります。」と返事がきて、私はほっとしました。私だって泣いているのです。
 彼女は○○研の修士の大学院生で、成績も良く性格もいいのですが、出す会社出す会社書類審査ではねられてしまうのです。私は、君はなかなか受からないからといって小さい会社の方が受かりやすいと思って、段々100億以下、20億以下と資本金の小さい会社小さい会社と受けているのではないか。そのような小さい会社は、大不況になったら真っ先に女性はとらない。雇用機会均等法があるので女性はとらないとは表向き絶対言わない。だめと書いてないからといって、受けても会社の方で女性をとる気がないので受からないのだ。もっと大きな500億以上か1000億以上の資本金の企業を受けなさい。そういう大きいところは、女性を上手に使うノウハウが出来ているので、絶対受かりやすい。君のように成績のいい人は絶対に受かるから、ターゲットを切り替えなさい。このアドバイスで彼女は大きい名のある○○という資本金1400億の会社に決まりました。私も大変嬉しかったです。

1-5.  「友の憂いに吾は泣き、吾が喜びに友は舞う」という心境の就職担当教授



 以上のように、今年1年の私の最も大きな出来事は、この就職担当委員として奮戦したことです。就職担当教授として悲喜こもごもでしたが、まさに、旧制一高の寮歌にある「友の憂いに吾は泣き、吾が喜びに友は舞う」という心境でした。
 

(おわりに)



 以上見てきたようにオイルショックやリーマンショックのような大不況や恐慌が起こった直後には、以下の(1)~(2)のような事が起こりますが、その時は(3)に書いたように、学生や大学院生の皆さん、身を処して下さい。
(1)各企業は採用人数を大幅に、絞ってくる、あるいは、その年は採用者ゼロにする、先輩は去年採用されたのに、彼より優秀な私がどうして落とされてしまうんだろうと、本人は落ち込んでしまう;(2)採用人数を絞っているので、真っ先に、女子学生、特に歳のいっている女子大学院生は、どんなに優秀でも、採用するつもりが、最初からない。しかし、人事担当者に落とされた理由を聞いても、男女差別とは決して言わず、縁がなかったとあきらめてくれと、訳のわからない事を言われる。女子学生は、規模の小さい会社では男子優先の傾向が強くてとってくれないので、できるだけ大きい規模の会社を受けよう;(3)大不況の時、落とされた学生、院生の皆さん、君たちが悪いのではない、たまたま、時代が悪いのだ。昔から4年と続く不況はないという。自分の実力から言って、不足に思う企業しか採用されなかった。悔しい。でも、そこでくさらず、3,4年我慢しろ。世の中、景気が良くなったら、数を絞った世代を、後から必ず途中入社という枠を設けて、人事構成を修正する。その時を狙ってもっと大きい所へ転職せよ。だから、小さい所に入ったからといってくさって居たらいけない、そこでも精いっぱい働いて能力を磨き、認められる様にせよ。見る人は見ている。次は、貴君の実力に見合った企業に転職できるだろう。だから就職浪人はしてはいけない、まず、小さい所でも正社員で取ってくれたところで頑張りなさい。これは、オイルショックを経験した私からのアドバイスです。
 以上、就活生の皆さんやその親御さんのご参考になれば、大変嬉しいです。
 
 
平成11年(2009年)12月26日 随筆
平成12年(2010年)1月21日 加筆
令和5年(2023年)10月1日 加筆
 
*なお、冒頭の写真は、下記のURLのフリー画像を使用させて頂きました。
https://www.photo-ac.com/main/detail/662634&title=%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%82%AF2

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