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名作 ヴィム・ヴェンダース監督「ことの次第」

「ベルリン天使の歌」、「パリ、テキサス」とか有名な作品があるヴィム・ヴェンダースですけど、自分はどっちの作品もいまいちハマらなくて。あまり期待せず「ことの次第」も観たんです。

期待を裏切られました。そう、良い方向にです。

ことの次第

作品紹介
「ポルトガルの海岸に建つホテルに滞在中の映画撮影のスタッフたちは、資金が足りなくなりLAに戻ったプロデューサーが戻ってくるのを待っていた。しかし、一向に戻ってこないため、監督はプロデューサーを探しにLAに飛ぶが…。」

この時期のヴェンダースは、アメリカで共同制作していたコッポラと方針の違いで争いが絶えず、放り出してヨーロッパに帰ってしまった頃だそうです。

そこで、友人のチリの映画監督ラウル・ルイスがポルトガルで撮っていた映画のキャストを丸々借りて、この映画を作ったそうです。

そんな行き当たりばったりでマトモな映画撮れるかよっ!って思いますが、第39回ヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞(一等賞)を取るんだから、分からないですね。


以下、ざっくりネタバレ含みますので、知りたくない人は読まないでください。

前半は、きれいな大西洋と瀟洒なホテル、美しい女優と渋い俳優たちが優雅に描かれます。

徐々に徐々に「おかしいぞ」と不安が皆を襲ってきます。この辺りはかなり念入りに描かれています。

ここまでだと、ゴダールの映画でも見ているような気分です。

でも、ここから序破急の破で、舞台がアメリカに切り替わります。テンポも一気にローからトップギアへって感じ。(とはいえ、低予算映画なのでマックススピードも遅いんですけど)

いよいよ映画が動き出します。もう別の映画のよう。B級のスパイ映画とかギャング映画みたいな。

さらに最後は、映画の在り方について話し合うというメタ認知的ダイアローグで締める。

端的に書いてしまうとこんな単純なストーリーなんですが、実際観てると先が全然読めないし、こんなオチ!?と最後まで驚き&肩透かし&感心します。

しかも最後で主人公が「映画にストーリーなんて要らない」って哲学を語ります。これが、この映画の思想そのもの、自己言及なんですよね。

ヴェンダースが持つ映画についての方法論を証明したのが、この映画って感じです。

確かにこれがオチでは、この後気になるし、ポルトガルの海岸に置いてきたスタッフは置いてけぼり笑 

コッポラが「これじゃ映画にならない!出資者が納得しないんだよ」とヴェンダースとケンカしたのもなんとなく分かる。

でもやっぱりヴェンダースのやったように、ここで手仕舞いにするのが確かに正しいって思わせます。

初めて観たときは、コッポラとの確執とか知らずに観て、普通に「すごい映画だな」と感心したんですが、改めて紹介するにあたってこういう背景を私も知りました。知らなくても面白いし、知ってればそれはそれで面白いです。

追い詰められた状態を逆手にとって、アイデア一つでこんな傑作をものにするのは天才です。これを観た後、ヴィム・ヴェンダースすごい、って素直に思いました。

頂けるなら音楽ストリーミングサービスの費用に充てたいと思います。