お礼とお詫び【side:ラヴィーネ】
■いただいた交流のラヴィーネ視点です。お話自体の進展はほとんどありません。
■お借りしました!
・レゼルくん、オワゾさん
もとより写真を撮られることには慣れていた。幼い頃の写真は祖父母や母親によってアルバムに残されているし、ジムリーダーとなった後も時々取材や撮影をよく受けている。しかし、今となっては仕事としての撮影ばかりで、オフの時の写真はほとんど残さなくなった。
だから、オワゾさんが撮ってくれていたのは素直に嬉しかった。受け取った写真、特にレーニアとラジェムの写真は可愛らしくて、同時にどこか新鮮さを感じた。レーニアが普段よりも無邪気な表情をしているからだろうか。
これはこの世に一枚だけの写真だということを反芻し、帰ったら写真立てに飾ろうと考えていると、オワゾさんから記念撮影の提案をされていた。
レゼルさんの隣に立ち、カメラのほうを向く。こういうときの適切な距離感が分からないままなんとなく立っていれば、やはり遠かったたのか、もう少し寄ってくれとオワゾさんから指摘されてしまった。
私はレゼルさんとの間を詰めるため、一歩踏み出した。しかし、彼もまた同じことを考えていたようだ。お互いに間を詰めようとして、ぶつかって。私はバランスを崩してしまった。
「あっ……」
「……!」
ああ、転んでしまったと、そう予感した。しかし、私の身体が地に着くことはなく。それが隣にいたレゼルさんが支えてくれたからだと理解するのには、少しだけ時間がかかった。
思考がフリーズしたのだ。
だって、こんなにも近づくなんて、思っていなかったから。
「すみません、咄嗟に」
バランスを整えた後、彼が私を支えていた手を離し、謝罪の言葉を告げた。対する私は今もなお動揺しているのだが、きっと表情には出ていないのだろう。しかし、声色のほうは正直だった。
「い、いえ、私の方こそ……」
咄嗟に出たのは、消え入るような震えた声で。感謝の意どころか謝罪さえ伝えられず、レゼルさんとも目を合わせられなくて俯いた。足元を見れば、彼とは靴のサイズも随分と自分と違ってしまったように感じた。
今日レゼルさんを見掛けたときから、なんだか雰囲気が変わったなとは思っていた。記憶の中の彼は自分とそう変わらない身長だったはずなのに、目の前の彼は少し見上げないと目が合わない。声だって記憶していたものより低くなっている。ぶつかった拍子に自分が転びそうになるなんて考えていなかったし、支えられるなんてもっと想定外だ。
同年代の男子がそういった成長をすることは知っていたが、実際に目の当たりしたのは彼が初めてだった。だから余計に、なのかもしれない。不慮の事故とはいえ、かなり緊張した。
けれども、レゼルさんはレゼルさんだ。何度か会って、会話もしている相手なのに、今回このような反応をしてしまったことが申し訳なくなる。
何とも言えない気まずさの中、私は撮影のことをすっかり忘れていて。気づけばオワゾさんが既に写真を撮っていたらしく、何枚かの写真を手に持っていた。
「ヤハリ自然的ニ起コリ得ルモノヲ映ス方ガ良イデスネ♪」
並んだ写真をおそるおそる覗き込む。その中に先程の、レゼルさんに受け止められた瞬間を収めた写真があることに気づいて、私は咄嗟に視線を逸らせた。
(なんだか、恥ずかしい……)
そんなことを思ってしまっている自分が情けないような、レゼルさんにもなんだか申し訳ないような。普通に撮ってもらった写真を見たときとは違う、上手く言葉に表せない、複雑な気持ちだった。
ふと、足元からレーニアの呼びかけるような鳴き声がして、私は我を取り戻す。顔を上げると、レゼルさんがラジェムを抱きかかえて、ここから移動しようとしていた。
「僕達はそろそろ行くよ」
「あ……えっと、ちょっと、待って」
しつこく纏わりつく困惑をなんとか振り払い、立ち去ろうとする彼らを引き止める。私は急いで、自分の手荷物から二人分の小袋――ラッピングされた焼き菓子の詰め合わせを取り出した。ハロウィンだからと店員に勧められ、いくつか購入していたものだ。
「これ……どうぞ。写真のお礼、ということで、受け取ってください」
簡単に告げて、去り際のレゼルさんとオワゾさんにそれぞれ小袋を手渡す。本当はお礼だけではなく、お詫びであり自己満足でもあるのだが、流石にそのことは心の中に秘めておいた。
チームが異なる者同士なのだから、この場でバトルを挑むこともできる。私自身バトルが目的で参加した身ではあるのだが、彼にだけは勝負を仕掛けるつもりがなかった。そしてレゼルさんからも勝負の提案がなかったのは、きっと彼もいつかの約束を覚えてくれているからだと思う。
私は約束の日を――彼がフィンブルタウンを訪れる日を、ずっと楽しみにしている。
だからこそ、私は今のままではいけない。見せたいものを胸を張って見せられるように。彼と良いバトルができるように。迷っている場合ではないのだと、改めて自分に言い聞かせた。
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