発展途上少女【side:アミュレ】

※前半と後半で違う交流の流れをお借りしてます。時間軸的には前半→後半、交流内容的にはそれぞれ独立しています。

■お借りしました!
・テラーさん
・ルーミィさん、ミィミくん
・ガラドさん



 警戒心の欠片も持たない子に、ボールの中のクラウドはいつも頭を抱えている。しかし幸運なことに、アミュレがこれまで出会ってきた人間は皆善人だった。もしかすると、善人のふりをしている人間も紛れていたかもしれないが。
 旅に危険は付き物。彼女がいつか痛い目に遭わないか、かつての自分の主人のようにならないかと、クラウドは心配でならなかった。

***

「作戦会議!?いいよ!」

 元気の良い返事。をしたのはいいものの、アミュレは具体的に作戦会議とは何なのかを分かっていない。それでも、不思議と心が躍るようなその言葉に、アミュレは目をより一層輝かせた。

「それじゃあまず、パウちゃんの技を見せてくれないか?」
「わかった!パウちゃん、お願い!」

 パウは眉間の皺を深めたまま、のそのそと動き出す。彼が渋々ながら動いたのは、テラーがポケモンについての知識がある人間だと判断したためだった。それはそうと、パウワウではなくタマザラシだと訂正しないあたりは気に食わないが。
 パウが空に放ったのは、勢いのある粉雪と水流。先程アミュレが擬音で伝えた通りの光景が、二人の眼前に広がった。

「これは…こなゆきとみずでっぽうだな。バトルの時は、技の名前で指示してあげるといいぜ」
「!わかった!」
「他には何が出来るんだ?」

 テラーの視線、そして問いかけが自分に向けられていると気づいたパウは、仕方ないなとばかりに鳴き、また動き出す。小さな手、耳、そして尻尾を畳みこみ、パウは球体のような体勢をとった。

「お、まるくなる。これは守りを固める技だな」
「これも技なの…!?」

 アミュレがしゃがんで、不思議そうにパウを見つめる。すると不意に、丸くなっていたパウが転がりだした。ボウリング玉のように転がるパウはそのまま木に激突し、その衝撃で木からはいくつかきのみが落ちた。

「これは、ころがるっていう技だな。丸くならなくても使えるけど、丸くなった後に使うと強くなる」
「丸くなって転がる…!わかった!」
「うんうん。ポケモンの技は4つまでだから、これで全部かな…」

 テラーに教わったことを、アミュレが一生懸命メモに書き記している僅かな間のことだった。ほんの少し目を離しただけなのに、そこにいたはずのボウリング玉、もといパウの姿がなくなっている。

「あれ!?パウちゃん!?」

 アミュレが異変に気づいたその時。つい先程と同じ、木に激突するような音が森に木霊した。恐らくまだそんなに遠くはない。そう判断したアミュレの身体は、考えるより先に動き出す。

「あたし、追いかけなきゃ…!色々教えてくれてありがとう、テラーさん!バトル頑張るね!」

 最初予定していた作戦会議、にまでは至らなかったかもしれないが、必要な知識を得ることができた。パウのことを優しく教えてくれたテラーに感謝の気持ちを告げて、アミュレは駆け足でその場を立ち去った。

***

「いいよー!」

 またしても元気の良い返事。あんな風に問われてしまえば、アミュレにはイエスと答える他なかった。

 アミュレはルーミィに自分たちのことを語った。リフィアタウンから来たことや、パウの好きなところ、風船が嫌いだと分かった経緯まで。ルーミィは相槌を打ちながら、アミュレの話に耳を傾けてくれた。
 話していると時間はあっという間に過ぎて、二人の元に身体を拭き終えたと思われるゴロンダが帰ってきた。 

「あっ、さっきのポケモンさんだ!」
「おかえりなさい」

 ルーミィとゴロンダ――の中の人の計らいにより、アミュレはゴロンダが着ぐるみではなく、本当にポケモンなのだと思い込んでいる。先程こそ風船に気を取られていたものの、アミュレのまだ見ぬポケモンに対する関心は頂点だった。

「ルーミィさん、このポケモンはなんていうお名前なの?」
「ゴロンダっていうポケモンよ」
「ゴロンダさん!えっと、さっきはパウちゃんが風船割っちゃって、濡らしちゃってごめんなさい」

 アミュレが頭を下げれば、気にしないでくれ、とばかりにゴロンダがその頭を撫でてくれた。優しい対応にアミュレも驚いて、そして笑顔を零す。
 顔を上げると、アミュレはゴロンダの身体に何かがしがみついていることに気づいた。その子もまた、アミュレにとって初めて見るポケモンだった。

「ルーミィさん、この子は?」
「ガラル地方のニャースよ。名前はミィミ、ミィちゃんって呼んであげてね」
「ミィちゃん!かわいい〜!ルーミィさんもポケモンに詳しいんだね」

 も、というのは先程も詳しい人間に会っていたからだった。そこでパウちゃんの技について教えてもらったのだが、ヒトシやクラウドのことはまだ知らずにいる。

「…あたし、まだバトルしたことなくって…でも出来るようになりたいの!」

 そう宣言して、アミュレは自分の持っていた残り2つのモンスターボールを放り投げた。出てきたのは、堂々と胸を張るクラウドと、少し眠いのかぼんやりしているヒトシ。

「だからね、バトルのこと、この子達のこと、教えてくれませんか?」

 折角行動を共にするのなら、彼女からも学べることは学びたい。まだ知らないことを知っていきたい。純粋な思いを胸に、ルーミィをまっすぐに見つめた。

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