負けず嫌いな我儘【side:イチカ】

■お借りしました!
・サラギさん、べヴェルちゃん



「ゾロア〜?」

 呼びかけても、当然返事はない。だから私はひたすら、ゾロアを探して草むらを覗きこみ続けた。
 べヴェルがほうでんを使ってくれたおかげで、確かに探しやすくはなった。なったのだが、やはりその電撃がうっかりゾロアに当たっていないか、と不安で仕方ない。とはいっても当のべヴェルはいつも通りご機嫌だし、実際これくらいしないと野生ポケモン達は倒せなかっただろうから、その子を咎める気にはならなかった。

 辺りが明るくなったとはいっても一時的なもの。こうして探している間にも徐々に暗くなり始めているし、野生ポケモンもまたどこからか現れるかもしれない。実際に、先程のポケモン達はどこからともなく湧いて出てくるようで不気味だった。アカネたちが周囲を警戒してくれているけれど、それでも安全とは言い切れない。
 一刻も早くゾロアを見つけてこの場を去りたい。そんなとき、サラギに背後から肩を掴まれた。

「あれじゃねえの」
「…あ!」

 サラギが視線をやった先にいたのは、小さくて白い毛並みの――間違いなく私が目撃したゾロアだった。
 急いで駆け寄れば、その子の黄金の瞳と目が合った。それでもその子は、逃げることも吠えることもしない。理由は明らかだった。

「弱ってる…!さっきのやっぱり当たってたんじゃないの!?」
「広範囲攻撃だからな」
「だからそういう問題じゃなくて!」

 恐らく麻痺状態になっていて動けないのだろう。倒れているところを抱き上げても、ゾロアは嫌がる素振りを見せない。進化前のペチカと同じふわふわの毛並みは、少し乱れていた。
 その子を抱き上げたまま立ち尽くしていると、後ろにいたサラギから声が掛かった。

「何、捕まえねえの?」
「確かに、そのつもりだったけどさ…」

 サラギの言う通り、元々この子を捕まえたいという衝動のまま、危険を承知で時空の歪みに飛び込んだ。私はゾロアが好きだし、この子が進化したらどんなゾロアークになるのか興味がある。その気持ちは今も変わらないけれど。

「サラギ、空のボール出して」
「何で」

 ポケモンを捕まえるのであれば、自力で捕まえたい。そんな子供っぽい負けず嫌いが邪魔をしたから、私はまたひとつ、我儘なお願いをした。

「あんたが弱らせたんだから、あんたが責任持って捕まえて、育ててよ」

 サラギに譲ることは別に嫌ではない。彼が何だかんだでポケモンの世話はきちんとする人間だと知っているし、彼がゾロアを捕まえてくれるなら私もその子の姿を傍で見守ることができるのだから。
 これはもはや譲る、というより完全に押し付けだけど。断らせない、断らないでほしいという意思で彼の赤い瞳をしっかりと見つめ、抱えたゾロアを押し付けるように近づけた。

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