初めの経験値【side:アミュレ】
■お借りしました!
・サーシャくん
こなゆきによって凍ったバトルフィールド。パルストはその上を滑り、転がるパウの身体を跳び越えた。その姿はまるでテレビで観ていたスケート選手のように見事で、アミュレは思わず目を奪われた。
だから気づくのが遅れてしまったのだ。パルストが直後に繰り出した、毒を纏った一打に。
「!パウちゃ、」
アミュレが声を上げた時には、パウの転がる勢いを止めるようにパルストのどくづきがお見舞いされていた。
しかし、毒にじわりと侵食されながらも、パウは転がる勢いだけは止めようとしなかった。むしろこんなことくらいには負けないと、勢いは増すばかりで。
そのままどくづきを押し退け、パルストの身体ごと宙へ弾き飛ばした。
「……ボクたちの負けだね」
効果抜群の一撃が決まったからだろうか。地面に倒れ伏したパルストの様子を確認して、サーシャが告げた。対するアミュレは何が起こったのかまだ理解が追いついていないようで、瞳をぱちくりと瞬かせている。
初めてのポケモンバトルで、バトル中はとにかく楽しくて夢中になっていた。当然、勝敗のことなども全く気に留めていなかったわけだ。勝ちたいとは特に思っていなかったし(パウは思っていたかもしれないが)、勝てるとも思っていなかった。
だからこの結果に、パルストが倒れてパウが立っている光景に、ただ驚いてしまっているのだ。
「え、これって、あたしたちの勝ちなの?」
「そうだよ。はい、これチップ」
「わ……!チップだ!貰っていいの!?」
「そういうルールだからね」
アミュレはサーシャの顔と受け取ったチップを交互に何度も確認した。そしてようやく、確かに自分とパウが勝ったのだと、初めてポケモンバトルで勝ったのだと実感して、嬉しい気持ちが溢れ出した。彼女が初めてパウと出会った時以上の、とびきりの笑顔と共に。
「あのね、あたし、すっごく楽しかった…!初めてバトルしたのがおねーちゃんとで良かった!」
興奮冷めやらない様子のアミュレはそう言って、サーシャの手を取り両手で包み込むように握った。同時に、アミュレの頭にあまりにも今更な疑問が浮かぶ。
「ええと……おねーちゃんの名前はなんていうの?」
「そういや言ってなかったね。ボクはサーシャ」
「あたしはアミュレ!えっと、バトルしてくれてありがとう、サーシャおねーちゃん!」
アミュレは自分より少し背の高いサーシャのことをまっすぐ見つめて、感謝の言葉と共に笑いかけた。
さて。バトルには勝ったとはいえ、僅差での勝利であった。パウも立ってこそいるがパルストの技を何度も食らってしまったため、相当疲れているだろう。アミュレは屈んで、健闘したパウを労おうとした。
「ね、パウちゃんもお疲れさま……パウちゃん!?」
じっとしたまま動かないパウの顔を覗き込むと、眉間にいつも以上に深い皺を寄せていて、顔色もいつも以上に青くて。様子が変だと思った途端、そのまま彼は真横に倒れるように転がった。
パウの元に駆け寄ってその様子を見たサーシャが、一言。
「どく、食らっちゃってるね……」
「ぱ、パウちゃーん!!」
まだ初心者トレーナーのアミュレは、どく状態になったポケモンの治し方もわからなくて。この後パウはアミュレの泣き声を聞きつけてやって来たイエローチームの治療により、事なきを得たという。
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