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一緒に渡れば、【side:スウィート】

■お借りしました!
・リピスちゃん



 こいつを連れて行くも置いて帰るも、最終決定権はオレにある。あると分かっていながら、リピスに選択を委ねた。
 拾ってくれる宛があるのなら、もう一緒にいる意味もない。さっさと彼女を見捨てて置いていけば良い。そう頭では理解しているのに、オレはそれを選びたくなかったから。

「でも、それでもわたしはスウィートといたいみたい」

 こちらの手をとって、リピスは答えを告げた。愚かな選択だと思う。でもそんなことは、彼女だってとっくに分かっているはずだ。
 リピスはもう、変わってしまった。

「……まだ、一緒にいてくれる?」

 案じるようにこちらを見上げる彼女と視線が交わり、また胸の内がざわつく。決して不快ではないこのざわつきの正体は、悔しいがもう分かっている。 

「何だよ、それ」

 小さく吐いた言葉は、微かに震えていた。こちらの手を握ってくる小さな手。あの春の日のように振り払ってしまうことは容易なのに、とてもそんな気分にはなれない。

 認めたくない、悔しくて仕方がない。オレはあんたが嫌いで、あんたもオレが嫌い。だからこんなのはただの気まぐれだと、自分に言い聞かせてきたのに。ずっと、そうであってほしかったのに。
 けれど、いい加減認めざるを得ない。あんたがオレに抱いているであろう感情も。オレの中に生まれてしまった、あんたに対する不格好で歪んだ感情の存在も。

 あんたのせいで、オレは随分と変わってしまったようだ。

「…本当に良いんだな」

 緩く握られたリピスの手を握り返し、そのまま腕を引く。彼女の身体がバランスを崩しかけたのを、空いている方の手で抱き寄せた。

 小さな手、軽すぎる身体。彼女はまだ子供なのだと、年齢も身長も違いすぎるのだと、改めて思い知る。それでも。

「あんたのこと、もう離してやれないけど」

 そう告げて、握った手に力を込める。彼女が痛くない程度に、それでも簡単には離してやらないという意思を込めて。

 もはや気まぐれなんかではない。渦巻くのは、何度も断ち切ろうとしてできなかった、呪いのような執着心と独占欲だ。

 自分のしてきた事を理解している。それらの行いが許されるものではないことも。だからこそリピスのような人間とは一緒にいない方が互いのためなのだと、柄にもなく思ってしまっている。
 彼女が拒むならこの手を離して、全て忘れて不干渉の関係に戻るだけだ。けれども彼女の意思が揺るがないというなら、もうこの手を離せない。いや、離したくない、というのが今の"俺"の答えらしい。

 だからこれが最後の確認だと、覚悟を問うようにリピスの瞳をまっすぐに見つめた。

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