募る疑心【side:スウィート】

■お借りしました!
・クラードさん、シャスチくん、トゥリーさん


 親族とは、容姿だけでなく感性まで似るのだろうか。
 男が返した理由を聞いて、一瞬そんな考えが頭を過ったが、すぐに思考を止めることにした。確かにそのランプのデザインは悪くない。老若男女問わず、気に入る人間は少なくないだろう。同じランプを同じ理由で手に取っただけでは、まだ確信には繋げにくい。
 そもそも自分の親族のことを何も覚えていない人間が考えたところで、分かりやしないことなのだから。

「君の名前なんて言うんだい?」

 暗がりの中、彼の持つ灯りが揺らめく。またゴーストポケモンなのかと、影の主である彼のダダリンを一瞥した後、オレは男の顔をまっすぐ見据えた。勿論、笑顔で。

「スウィートといいます。貴方は?」
「僕はクラード。それで、どこまで行くんだい?」
「そうですね…じゃあ、帰らずの村まで」

 チームリングの簡易マップを確認して、目に入ったチェックポイントの名前を告げれば、彼は頷いた。場所は適当ではあるが、リピスの向かった方向とは別方向にあるようだから丁度良いだろう。
 それよりもだ。ただでさえ薄暗いというのに、クラードという男が繰り出したダダリンのせいでさらに暗くなった視界が煩わしい。ダダリンを見上げながら、彼に問いかけた。

「どうしてダダリンを?」
「この森には悪戯好きのゴーストポケモンが多いからね。念の為だよ」
「なるほど。心強いな」

 そう語るということは、彼は恐らくポケモントレーナー。バトルの知恵もあるのだろうか。
 推察を続けながら、オレは彼と共に移動を開始した。目指すのはチェックポイントである帰らずの村。彼のランプと彼の連れているシャンデラが辺りを照らしてはいるものの、やはり森の中は暗く気味が悪い。
 まぁ、あいつはそう簡単に迷子になんてならないと思うが。

「…君のミミッキュは引っ込み思案なのかな」

 そう問いかけた彼は、微笑みは絶やさずに横目でこちらの足元を見ていた。先程から彼の視線が時折オレではなくミリカに向けられているのは、やはりゴーストポケモンだから、なのだろうか。

「ああ、はい。この子はかなり人見知りで…。あまり気にしないでください。悪戯もしませんから」

 ミリカは隠れたままではあるものの、ぴったりとオレの後ろをついてきている。実際のところ、ミリカは人見知りというよりも、他人を嫌っているだけなのだが。とはいえ従順な彼女のことだから、独断で行動する心配はないだろう。
 この男がどういう目的で同行を快諾したのかは分からない。しかし、あまりこちらのことを探られたり変に警戒されたりするのも面倒だ。 歩みを進めながら、オレはそれとなく話題を変えることにした。

「クラードさんは、ゴーストポケモンが好きなんですか?」
「えっ?」
「いや、たくさん連れてるようなので、そうなのかなって思って」

 ただ純粋に気になった風を装い、オレはシャンデラの頬を優しく撫でてやる。するとその子は炎を揺らめかせて素直に撫でられているものだから、こいつは違うかもな、と再び思考を巡らせた。

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