いつもと違う彩りを【side:イチカ】

■時間軸:花ト卵
■お借りしました!
・サラギさん
・エドガーさん、ベアトリスさん



 私達に花飾りを贈ってきたのは、底抜けに明るい人達だった。目の前にたくさん並べられた選択肢は、彼らの店の商品のようにどれも魅力的で眩しくて、目移りしてしまう。
 私は一人でバトルすることが多かった。バトルは好きでも、誰かと協力することには苦手意識がある。タッグバトルをする機会に恵まれたとしても、いつもサラギと組んでいた。幼い頃から傍にいた、気の知れた相手だから。

「…確かに、そういうのはやったことないよね」
「お互い他人と組む必要ねえからな」
「うん」

 他人の事はよく分からない。というよりも、分からないものだと諦めるようになった。ただ言葉を交わして相互理解を深めるだけ、簡単なそれが私にとっては難しい。他人を思わず傷つけないかという不安と、私が傷つかないかという恐怖がいつも付き纏う。
 でも、だからこそ。

「けど…ちょっとやってみたい」

 初対面なのに、この二人なら大丈夫だろうという直感があった。私の今の小さな声をきちんと拾って、嬉しそうにしてくれている彼らならば。

「お!乗ってくれるかい?」
「う、上手くできるかは、分かんないけど」
「いいのいいの、楽しければそれで!」

 しどろもどろにそう伝えると、男性は笑顔を見せて、女性は嬉しそうに私の手を取った。やっぱりこの二人、眩しい。けれどそんな風にされるのは素直に嬉しくて、照れくさくて。少しずつ、期待感に胸が膨らんでいく。
 ちらりとサラギの方を見れば、またかと言ったような顔をした彼と目が合う。確かにまた私が勝手にバトルを引き受けて巻き込んでしまったけど、まぁ大丈夫でしょ。今日はお祭りなんだし。
 その後は自然な流れで、私は女性の方と組むことになった。

「私はベアトリス、ビーって呼んでくれると嬉しいな。一緒に頑張りましょうね!」
「私はイチカ。よろしく、ビー」

 早速どの子をバトルに使おうかと問われて、私は自分のモンスターボールを見つめる。私の手持ちは全員あくタイプだし、こちらのポケモンに合わせて選出してもらった方がバランスは良いと思うけど。
 なんてことを考えていると、私のその視界の端で、白黒が動いているのを捉える。思わず足元を見渡せば、そこで飴細工を食べていたはずのけんたろうの姿はなかった。

 急いでけんたろうを捕まえて連れ戻せば、彼は私の腕の中でじたばたと暴れる。恐らくビーたちの店からする甘い香りを嗅ぎつけて、食べ物を狙っていたのだろう。一体どこまで食いしん坊なのかと溜息をつく。
 同時に、ひとつの案が浮かんだ。

「…この子、使ってもいい?このままだとお店の商品まで食べちゃいそうだし」

 けんたろうを抱えたまま、恐る恐るビーに尋ねる。何故わざわざ確認したのかというと、これからタッグを組む彼女に迷惑をかけるかもしれないからだ。けんたろうが私にあまり懐いていないことは、どう見ても明らかなのだから。

 けんたろうにはまだタッグバトルをさせたことは無いけれど、彼もバトル自体は好んでいる方だ。ただ、彼の性格的に誰かと連携するのはまだ難しいかもしれない。
 それでもバトルをさせることで、少しは彼の空腹が紛れたらいいな、という思いからの判断だった。

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