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東方アレンジが云々の話3

気持ち氏が東方のファンダムがどうなってほしいかという話をしていたの
で、俺も何か書く。

気持ち氏は主にボカロ曲やそのMVと比較して東方のダサさみたいな話をしているが、そもそも比較対象をボカロ文化にもってきて東方を論じるのは、まあ本来は妥当ではないかもしれない。東方Projectはゲームだし、二次創作文化を含めても比較されるべきはひぐらしであり、Fateであり、アイマスであり、艦これであり、ウマ娘であり、ブルアカであるかもしれない。そういう面で見れば東方は本当によくやったというか、凄まじい量の二次創作文化を生み出した特異なゲームである。ただまあ、俺も別に互いに肩を組み合って「俺たちはよくやったよな?」と慰め合いたいわけじゃない。ニコニコ動画における東方・ボカロ・アイマスという三大ジャンル定義はそう馬鹿にしたものではない。
振り返ってみれば、2010年頃というのはDTMを始めるにあたって、ボカロより東方アレンジの方が敷居が低かったし、新規参入者も多かったというイメージがある。あの頃はDTMを始めるなら東方アレンジだったのだ。今の10代には考えにくいことことかもしれない。彼らはきっと今DTMを始めるならボカロから入るのだろう。
気持ち氏の言う「なぜ東方からは米津玄師が生まれなかったのか?」という明快な問いは好きだ。まるで「なぜ日本からスティーブ・ジョブズが生まれなかったのか?」みたいだ。米津玄師に関する答えは、東方アレンジがその名の通りアレンジ文化であるというのが最も大きな要素なのだろう。そこには作曲という最も大きなオリジナリティが欠けている。そしてキャラクターを通して曲の世界観もまたある程度の範疇に縛られている。彼らが真に創作能力を発揮したいと願う時、それは必然的に東方という枠から離れる必要がある。(いや、断言はよくない。そういう場合が多いと言っておく。アレンジの世界にいると「こいつはどう考えても東方に創作能力のかなりの部分を捧げていて、そうした能力は東方二次創作の中でしか発揮できないし評価され難いだろ」みたいな人間も数多くいる)
また、東方アレンジはボカロ文化にはない他の音楽的側面もある。ボカロというかDTMが基本的にオタクが一人で部屋でシコシコ作っているものであるのに対し、東方アレンジにはバンドがある。岸田教団&THE明星ロケッツやUnlucky Morpheusなどの活躍を見れば、まあ米津玄師とはいかないまでもそうした面で強みがあったのは間違いない。
(この点は海外サークルを探索してても感じることで、日本のサークルは圧倒的にロックやジャズやオケなどでバンドサークルが多い。中国以外の海外サークルは基本的に個人のDTMが主体だ。中国は例外的でバンドものがかなり多い。これは東方即売会が中国各地で開催されていて対面のコミュニティが形成されているおかげだろう)
もちろん大手サークルが金銭的な理由によりYouTubeのMVより即売会でのCD販売を優先するという指摘は正しいのだろう。そしてそれが東方二次創作がトレンドに乗り切れない理由であるというのも筋が通っている。
なぜ東方アレンジでボカロが使用されてこなかったのか、というのはもう少し考えてみてもいい話なのかもしれない。10年代と20年代では当事者にとって住み分けの認識もかなり異なるだろうし、今後は変わってくるのかもしれない。

東方界隈には限界集落がいくつもあるという気持ち氏の指摘はけっこう正しいと思う。そうなってくると次に考えるのは、如何に中央集権的な構造に立ち返るか、ということなのではないだろうか? 中央集権という言い方が微妙であれば「昔のニコニコ動画みたいにここを見れば東方の流行りの要素の全てが分かるよ」みたいなプラットフォームというかコンテンツというか、要するに、皆が眼差す東方の場所だ。
コンテンツでいえば現状、まず第一に原作のゲームが該当するだろう。神主のゲーム作りのペースはやはりどう考えても異常で、一年に一回程度は何か新作を出している。これは凡百のゲームクリエイターには追いつけないスピードであるし、SNSや二次創作での話題の面で見ても買い切りゲームという枠でなら相当なものであると思う。ただ現代にはソシャゲがあり、トレンドに応じながらの小刻みな新キャラ・新エピソード公開にはどうにも負けてしまう面があると思う。自分のようなTwitter/Xに常駐してる人間からすると特にそう感じる。(TikTokやインスタやYouTubeを長時間見る人間にはまた別の景色が見えているはずだ) もちろん東方にもソシャゲはあるのだが。
思うに、この面でいけばちいかわ的なやり口も一つの手ではあるのかもしれない。SNSで日刊で出す漫画形式は強い。ちいかわは完全オリジナルな作品なので比較するのはアレだが、まあ例えばギミマスみたいな感じで何かやれたらいいんじゃないだろうか。東方我楽多叢誌はナガノやなか憲人やギミーみたいな人間を見つけてきて描かせてもいいのではないだろうか。
そう、東方我楽多叢誌だ。これもまたそういう東方の中核的存在を目指した一つのメディアだろう。おそらくPRTIMESのようなプレスメディアを当初は目指していたんじゃないかと思う。そこから手広く漫画連載などもやっていく。このやり方はけっこう妥当な路線であるように思う。オモコロになれれば一番良いのかもしれないが、これは難しい道だろう。だがそこに至れれば原作とは別の価値を勝ち取れるかもしれない。

東方は公式でのアニメ化がまだない。おそらく10年代には神主にそういう話がいくつも舞い込んできていたんじゃないかと邪推するが、とにかく現在はそういうことになっていない。もちろんアニメ化しないことで失われなかったものというのは当然あったと思う。二次創作で東方のアニメを作る情熱はここから生まれているし、大手音楽サークルのMVで東方キャラが動いていることはそれ自体が夢みたいなものだ。京都幻想劇団がおそらくかなりの資金を投じて作ったであろう秀麗なアニメも、公式がアニメ化していないという前提がなければ成立しなかっただろう。ただ一方で、こういう感覚は結局2010年代までの話だったのではないかという気もする。20年代においてはもはやそういう感覚は薄いのではないだろうか? 東方がコンテンツとしてさらに一回り大きくなるにはやはり公式アニメが必要なのでは? 10年代後半くらいに一度テレビアニメをやっておけば、20年代に劇場版とかやれたんでは? それで皆でワイワイやれたんでは? これは一個人の勝手な妄想である。
アニメ化していれば全部上手く運んだだろうというのちょっと嘘だ。思うに、ゆっくり解説が成立しているのは霊夢や魔理沙に公式に声が当てられていないという点が前提としてあるように思う。ゆっくりはなんともいえない絶妙な認識の上にある気がする。ただまあ、それももはや過去の話になりつつある。ずんだもんもいるし。AquesTalkのゆっくりボイスはVOICEVOXの自然な感じにはどうにも劣ってしまう。それに本来AquesTalkと東方は全く無関係のものであったはずだ。それが二次創作で結びついて文化になったわけで、これは二次創作の極めて美味しい部分であり奇跡であるが、それは野放しの奇跡だ。これをコントローラブルなものに変えるには、やはりVOICEVOXとかと組んで東方キャラをそこにぶち込むべきなのだろう。
これはボカロでもVtuberでも同じことが言える。要するに東方公式のものを立てるべきだったのではないかということだ。神主が描き下ろした新キャラとかでボカロやVtuberを作ればそれは当たるかどうかはさておき、一つの試みにはなっただろう。
Vtuberはまあ難しかったとしても音声合成ソフトは何か一つ作ってもよい気はする。今だとCeVIO AIとかSynthesizer V AIみたいなやつ? このあたりの歌唱や読み上げ用の音声ソフトは現在かなりの勢いで進歩してる分野だと思うので2、3年でまた状況が変わってくるかもしれないが。霊夢や魔理沙に声を付けるというのは現在では悪手かもしれない。そこは東方の新キャラとして作れば、過去からの東方文化を脱色できるし新参も入りやすい。
まあとにかく音声合成ソフトに東方がいれば、いろんな面が打開できるように思う。ボカロPたちに東方を噛ませることができる。彼らの文化を東方に持ち込めるし、逆も然りだ。そこで作られる曲が東方アレンジであるか否かはもはやあまり問題ではない。
いよわ氏が足立レイでキレッキレの曲を作ったみたいな感じで、東方の音声合成ソフトが出現すれば有名なボカロPが何か作ってくれるんじゃね?みたいな気持ちがある。(まあ足立レイには足立レイなりの長い歴史があるわけだけど)(余談だが「熱異常」は曲のコンセプトといい完全に決まり過ぎててちょっと凄いというか、「初音ミクの消失」あたりからのボカロ文化の文脈はあるのかもしれないが、「きゅうくらりん」等のヒットがあったとしてもこれが300万再生されてるのはビビる)

神主は音声合成ソフトとかの方面には関心がないのかもしれないし、基本的には野放しの状態を好んでいるのかもしれない。二次創作の野放しは東方Projectの基本方針であり、二次創作文化が花開いた前提であるのは間違いない。だがあらゆるコンテンツで二次創作を大きく許容することが前提となった時代で、コンテンツ文化の繁栄を図るなら、ある程度総合的で強力な中心が必要になってくるのではないだろうか?

話変わって、俺が気持ち氏のことを好ましく感じるのは下記の点だ。
・近年のボカロをちゃんと聞いてそう
・大手サークルを追ってそう
・トレンドをちゃんと追ってそう
・それなりに長い間東方アレンジを追ってそう
特にボカロ追っているのは嬉しくて、嬉しい。狐夢想氏とはるまきごはん氏のリプライのやりとりまでウォッチしてるのはちょっと笑ってしまった。すごいよ。俺ははるまきごはんだと「第三の心臓」が一番好きです。

あと、東方の大手サークルをちゃんと追ってる感じのもすごいなと思う。俺は大手サークルは全然追ってないし、見る人が見れば俺の東方アレンジレビューは悪い意味で変に映るはずだ(これは紹介するサークルが単に零細であるとかインストであるとかいう意味ではなく、そのジャンルの曲を紹介するならこのサークルに目配せや言及があるべきだろ、みたいな話だ)
だから暁Recordsが「トランスダンスアナーキー」のMVがハネてたこととか全然知らなかった(もっと言うなら、サークル名知ってるだけでほぼ聞いてなかったのでボーカルの人ってこんなに良い声してたんだ~みたいな感想すら持ってしまった。今更言うことではないと思うが、良いですね暁Records)
(あと、ゆっくりKは全く知らなくてかなり笑った。カオス*ラウンジのコラージュ問題やMrs.エスタシオン炎上が遠い過去のことのようで嬉しい。実際、それは遠い過去のことなのだ)
そんな感じなので逆にぱらどっと氏のCDは過去に即売会で買っていて(多分Adaptor名義の頃?)、今のYouTubeでハネてるのとか全然知らなかった。これは別に自分がマイナー漁りをやってて偉いだろとか通(つう)だろとか言うつもりは一切なく、そんなことよりは全部見てる方が良いに決まっている。そういう目線で誰かが俺の記事に批判してくれるなら、それはありがたいことだ。まあ結局自分は自分のできる範囲でやればいいし、俺の知らないことは別の誰かが書いてくれるはずなわけで。少なくとも我楽多叢誌ではそういう信頼で書いている。

ビートまりおがコロナ禍で東方オトハナビを作ったのは凄いと思うし、なんかそんな感じでボカロP集めて東方アレンジのコンピレーションアルバム作りません?
いよわとかはるまきごはんとかDECO*27とかピノキオピーとかぬゆりとか稲葉曇とかもちうつねの東方アレンジめちゃ聞きたくない? 聞きたいでしょ


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