僕が先生になったら聞きたい━━「美髪士」ではなく「美容師」になれていますか?
「普通科」はつまらない。芸術の世界に挑戦したかった
━━吉田さんが、美容師を目指したきっかけを教えてください。
吉田:高校の進路先を探していた時、ほとんどが「普通科」だったのを覚えています。なんとなく、普通科ってつまらないなそうと思って。尖っていましたね(笑)。
そこで、自分の好きなことを棚卸ししました。
大好きだった野球や陸上の世界でプロになることも考えましたが、ふと「芸術」にピンと来たのです。
僕はもともと、絵を描いたり、ファッションが大好きで。「デザイン科」を志望しようと思ったのですが、なぜか踏ん切りがつかずにいました。
━━どの仕事もワクワクするからこそ、たくさんの選択肢の中から選ぶのってむずかしいですよね。
吉田:そうなんですよね。たまたま、僕の母は美容室を経営しています。なら、「美容師でいっかな」と(笑)。
美容師の世界でも、芸術性を発揮できると感じたのです。そこで美容師の世界に足を踏み入れました。
美容師になったのは、偶然というか消去法というか。キラキラした動機ではなく申し訳ないです。
━━第一線で活躍されているので「強い想いがあるのでは?」と、勝手に思い込んでいました。
吉田:たしかに、美容師になったきっかけは、すこし受身かもしれません。
ただ、僕は「やるとなったら、本気でやり抜く」という気持ちは、人一倍あります。とにかく負けず嫌いなんです。
この馬力でやってこれたのだと思いますね。
業界トップの「SHIMA」での下積み。26歳で独立を決意
吉田:僕は独立前に、業界トップの「SHIMA」というサロンで技術を磨いていました。
美容師としての基礎は、SHIMAで教わったことばかり。ここでの学びは、「宝」であり「財産」ですね。
厳しいサロンでしたが、技術力が高く、最高にかっこいい先輩や後輩に恵まれました。
平日は夜中の1時まで、猛特訓。土日も練習漬けの毎日。それでも、刺激的で有意義な日々でした。
━━順風満帆そうに見えますが、どうして辞めてしまったのでしょうか?
吉田:ふと、「技術は超一流だけど、なんで”髪の毛”にしか興味ないの?視野をもっと広げようと思わないの?」と疑問に思ってしまったんです(笑)。
自分の直感や可能性を信じたくて、大胆に辞めてしまいました。
━━行動力が、すごいですね。
吉田:僕はとりやえず、やってみないと気が済まない性格なんですよね。
独立はまだ早いと思ったので、別のサロンに移転しました。今度は打って変わって、あまりにもゆる過ぎたんです。
僕は熱血人間なので「もっと、お客様に向き合おうよ!」と言っても、全然響かない。
自分が求めている環境ではなかったので、1年足らずで辞めてしまいました。
そこで僕は気づいてしまいました。ああ、SHIMAに憧れているんだなって。大好きだったんだなって。
でも結局、自分のポリシーや世界観を大切にするには、独立してサロンを構えるしかないんです。そこで独立をして、今に至ります。
経営者を退き、大きな挫折。それでも、生活のため、お客様のために美容師をつづけた
━━吉田さんは、ご自身でもサロンを経営されていますよね。なぜ、サロンビレッジで美容師をされているのでしょうか?
吉田:実は……ショッキングな出来事が起こり、僕にとって大きな挫折となりました。
26歳に独立し、今まで5店舗のサロン(北千住 3店舗、銀座 2店舗)を立ち上げています。
共同で経営をしていたのですが、方向性の違いや資金面など、いろんな問題がでてきて。
「僕が退いた方がいいのではないか?」と判断し、経営から撤退することにしました。
━━そんなことがあったのですね……。
吉田:今までの判断や経験に悔いはありませんが、辞めた当初は、喪失感や焦燥感でいっぱいでした。
独立してから32年間、死にもの狂いで育ててきたサロンだったのでね。
人が怖くなり、人間不信になってしまいました。「もう、ひとりでやっていこう」と決意したくらいでしたから。
━━なるほど……。
吉田:とは言っても、生活はしていかなければいけない。
生活費のため、そして、自分を信頼してくれるお客様のために、美容師をつづけました。そこで、サロンビレッジに出会ったんです。
個人主義を貫いてやっていくつもりでしたが、そんな気持ちはいつの間にか溶けていきましたね。
サロンビレッジは、とにかく人があたたかい。「美容師を応援したい」という気持ちが、ひしひしと伝わってきました。
シェアサロンということもあり、縦ではなく「横」のつながりになったのが印象的でしたね。仲間や同志ができたような感覚があり、とても新鮮でした。
「無人島で孤立しているわけじゃなかったんだ……」と、あたたかい気持ちになりましたよ。
「ハイスピード、ハイクオリティー」にこだわる理由
━━なぜ「ハイスピード、ハイクオリティー」を徹底しているのでしょうか?
吉田:よく「もう少し時間があったら、もっと良くなるんですけどね」という言葉を耳にします。たしかに、時間をかけた分、質は上がるかもしれません。
でもプロであれば、限られた時間の中で最高のパフォーマンスを発揮することが、とても大切だと思うんです。
僕は長年、銀座で美容師をしてきました。銀座のお客様は、ちょっとしたスキマ時間を大切にしています。
仕事とママを両立しているお客様がいらっしゃいますが、その方は貴重なお昼休みを、僕に預けてくださいます。
きっと、1時間内でごはんを食べて、髪を切りに来ている。仕事後は育児があって、なかなか時間が取れないんだと思います。
もしここで、最低でも1時間はかかる施術をしていたら、このお客様との繋がりは、長くはなかったはずです。
ハイスピード、ハイクオリティーを徹底しているからこそ、僕を選んでくれているはずですから。
━━シンプルな言葉の中に、これほどの想いがあったのですね……。
吉田:ちなみに、僕のカット時間は約3分。もちろん、長時間の施術に慣れている方であれば「物足りないよ」と思うかもしれません。
でも、最短で最高のおもてなしをさせていただきますので、よかったらぜひ体験しに来てください。
「美髪士」ではなく「美容師」になれていますか?
━━吉田さんは今後、どのようなプランを描いているのでしょうか?
吉田:これまでの人生を振り返ると、人と対立してしまったり、大きな壁にぶつかったりと、苦い経験を何度もしてきました。もちろん、いいこともありましたが。
とても不思議なんですが、人間不信になったことがあっても、僕はやっぱり人が好きなんです。
ゆくゆくは「アカデミー」を立ち上げたいですね。
実際にセミナー講師の機会をいただいていますが、「教育の側面から、美容師を育てたい」という想いが、日に日に強くなっています。
僕がいつも、美容師に投げかけている質問があります。━━「美髪士」ではなく「美容師」になれていますか?
せっかく夢のある仕事をしているのなら、単なる髪を切る「美髪士」にはなってほしくないんです。
髪だけに焦点を絞るのではなく、お客様の想いを聞き出して、デザインする。
「髪を通して、内から変わる体験をしてほしい」と、心の底から思える美容師が増えたら、この上ない幸せを感じると思います。
その夢を実現するためにも、淡々と、目の前のことを丁寧にやり切りたいです。
取材・文/ヌイ(@nui_nounai)
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