見出し画像

マーケティング視点でOMOを読解した結果

こんにちは。

マーケティング視点で読解力を高めるノートでは8回にわたり、アフターデジタルの社会とOMOについて読み解いたことをおすそ分けしてまいりました。最終回の第8回は「マーケティング視点でOMOを読解した結果」をお届けします。

【記事化予定】

アフターデジタル社会とOMOを読解するノート
-なんでこのタイミングでQRコード決済-

No.1 OMOプラットフォーマーの定義
No.2 日本におけるキャッシュレス決済の見通し
NO.3 やっぱりQRコード決済は主役でない理由
No.4 誰もが目指す一つのゴールAlipayモデル
No.5 QRコード決済の競争が過熱してしまう事情
No.6 皆がAlipayみたいになれない理由のいくつか
No.7 OMOプラットフォームの必要十分条件
No.8 マーケティング視点でOMOを読解した結果 



1.OMOを志向するプラットフォーマーの事業構造


約1週間にわたって、-なんでこのタイミングでQRコード決済-のノートをお送りしてまいりましたが、今回が最終回になります。日常考えていることや、資料化していることをアウトプットするのは普段の業務の棚卸にもなり、大変新鮮でした。また、文字に起すと前後関係が明確になる他、演繹的にあるいは帰納的に全体像を深く理解することができるものなんだなと、気づきが多い1週間となりました。

また、ノートを書き起こし始める前に、アフターデジタルやOMOを理解しようとすると全容はこれくらいの範囲ではないか、中項目単位で分解するとこのような論点やテーマがあるのではないか?と想定した設計図どおりにノートを作成することができそうなので、胸を撫でおろすとともに、ご一読いただいた方から、あたたかいフィードバックを頂戴し、文章を書く、ということに少しだけ自信を持てそうな気がしています。

さて、最終回のノートでは、No.1~NO.7で読み解いてきた大きなテーマである、なんでこのタイミングでQRコード決済の熱が高まっているのか、その背景にあるOMOを志向するプラットフォーマーの思惑、そして、皆がAlipayモデル(アリババ)を目指し、そのモデルの成立をもってマネタイズを図っていこうとする目標やゴールに、ちょっとでも近づくために必要な取り組みや、そのモデルに最も近づけそうな事業者(企業)はどこか、また、現時点で足りていないと想定される機能要素について、総まとめをしたいと思います。

まず、本ノートでご紹介してきたAlipayモデル(アリババ)を下絵とし、日本におけるOMOを志向するプラットフォーマーの事業モデルについて読解した結果をご紹介したいと思いますので、以下の図表をご覧ください。

画像1

OMOプラットフォーマーの事業モデルを因数分解すると大きく3つの領域に切り分けることができます。

第1に、日本でOMOプラットフォーマーになるための条件を満たす企業は、祖業のプラットフォーム事業で大量のID(会員/利用者)を保有して既に存在感のある事業を運営している企業だということです。No.1「OMOプラットフォーマーの定義」では、最低でも2千万ID以上の事業基盤を有している事業者が、その条件に合致する、ということをご説明差し上げました。

第2に、キャッシュレスへの参入事業者の全てが、イコール、OMOプラットフォーマーではないのですが、18年度から19年度にかけ、特にQRコード決済に参入を果たした事業者が多かったという事実をご紹介しました。

数あるキャッシュレス手段のなかで、多くの事業者がQRコード決済という手法を採用した事業と背景については、No.4「誰もが目指す一つのゴールAlipayモデル」の中でご紹介した通り、「有効なIDの再取得」が必要だったからだと理解できます。

「有効なID」とは、簡単に申し上げれば、「将来のマネタイズに資する」「事業の礎となり得る」要件を備えたIDであり、上記の図表でも記載しているとおり、「属性情報を備えた正確な個人情報」、「事前に設定された支払口座情報」、「データの利活用やアプローチを可能とする同意許諾」の3点を備え持ったIDを指しています。

第3に、OMOプラットフォーマーは、QRコード決済事業で収益化を果たそうとしているわけではなく、目指すところはAlipayモデル(アリババ)を参照し、マネタイズポイントを作り上げようとする事業者である、ということです。

一つの方向性は、「金融収益」の確保が挙げられます。誤解を恐れずに書き表せば、収益の柱は、QRコード決済やキャッシュレス事業を通じて確保した有効なIDの保有者に「金を貸す」、いわば銀行業を通じたマネタイズになります。

また、もう一つの方向性が、「データ活用」であり、ここでは2つの取り組みをご紹介してまいりました。まずは、有効なIDを持つ利用者のサービス利用を通じて得られた行動履歴や嗜好(あるいは志向)のデータを自社が提供するサービスの高度化(例えばAi/機械学習を用いたスコアリングやレコメンデーション)に用いていることを読み解くことができます。

加えて、自社メディアを通じた広告、外部のDMPやDSPとの連携による広告配信、メーカーやパートナー企業に対するマーケティングソリューションの展開等を通じてマネタイズを図っていく、というのが、OMOプラットフォーマーが目指す、ひとつのゴールであり、現在考えられている正解モデル、であるということを申し上げたいと思います。

2.OMOを志向するプラットフォーマーを分類する

No.1「OMOプラットフォーマーの定義」の中で、OMO時代のプラットフォーマーを志向する事業者だと当方が印をつけている企業は以下の企業であるということをご紹介いたしました。

(1)大手IT/通信キャリア

・楽天(RPay)
・NTTドコモ(d払い)
・KDDI(auWalletPay)
・Line(LinePay)
・ソフトンバンク/Yahoo!(PayPay)
※全社QRコード決済を具備


(2)流通小売(コンビニ/GMS)

 ・7&iグループ(nanaco) ※セブンPayはいろいろあって終了
 ・ファミリーマート(FamiPay)
 ・ローソン(Lawsonスマホレジ) ※スマホレジ
 ・イオン(Waon)※現在、検討中も成否は不透明

(3)グローバルプラットフォーマー

 ・Apple(ApplePay)
 ・Google(GooglePay)
 ・amazon(AmazonPay)

上記の企業を、祖業の特徴や、提供している事業の特性で、OMOプラットフォーマー候補として、分類して図解致しましたので、以下の図表をご覧ください。


画像2

まず、大きな分類は、祖業がオンラインからスタートした企業なのか、あるいはオフラインの企業なのか、ということで、現在保有しているデータの種別が異なってきます。

オンラインが祖業のプラットフォームである企業としてプロットした楽天やAmazon、もう一つのロゴはPayPayモール(Yahoo!が運営)ですが、これらの事業者はオフライン、つまり流通小売や店頭での事業を営んでいないことから、No.7「OMOプラットフォームの必要十分条件」で解説を差し上げたAlipayモデルを成立させるための6要素のうち、「オンとオフ360度データの保持と活用」という点で、オフライン側のデータ不足が生じてしまうことがわかります。

一方、オフラインを起点とする事業者は、上記の裏返しのことが発生いたします。自社の商圏、店舗で、お買い上げいただいた事実は把握することができますが、生活者が普段、ECサイトと自店をどのように使い分けをしているのか、自店で購入されていない商品は、どのチャネル、どの業態を使って購入されているのか、を把握することができないため、Alipayモデル(アリババ)を志向するのであれば、何らかの形で生活者のオンラインの行動を理解する方策を講ずる必要があると言えるでしょう。

続いて、左右の軸はOMOを志向するプラットフォーマーが現時点で取得しているデータの性質と粒度の違いを軸として、事業者をプロットしております。

No.6「皆がAlipayみたいになれない理由のいくつか」、の中で、決済データは「何を」まではわからない、としてご説明を差し上げたとおり、同じく生活者の行動に関わるデータであるものですが、「決済データ」と「購買データ」には大きな隔たりがございます。

「決済データ」では、最終的に購入された商品が何かを特定することができません。No.7「OMOプラットフォームの必要十分条件」で解説を差し上げたAlipayモデルを成立させるための6要素のうち、「単品情報(商品情報)」を決済事業者は取得することができないため、図表の左手にプロットされているキャッシュレス手段の提供事業者については、何らかの形でオン、オフともに「購買データ」を取得する策を講じないと、Alipayモデル(アリババ)の実現から遠ざかってしまうという事実を、お分かりいただけるのではないでしょうか?

3.各社がAlipayモデル(アリババ)に一歩でも近づくために

アフターデジタルの世界では、オンとオフの区分は消滅し、デジタルで再定義されることで、生活の至る所にデジタルサービスが溶け込み、あらゆる行動がデータ化される、とされています。オンラインやリアルという括りはなくなり、全ては「顧客体験」に集約される、というOMO(Online Merges with Offline)の時代がまもなく日本にも到来するのでしょうか?

また、日本を主戦場にする事業者の中で、最も早くストレスのない顧客体験を提供できる企業は一体、どの企業なのでしょうか?

そのポイントに行きつくため、OMO時代のプラットフォーマーを志向する事業者だと当方が印をつけている企業が、早々に着手し、何らかの手立てを講ずる必要があるポイントを読み解くため、現時点で課題感が最も大きいと想定している領域を、以下の図表にまとめましたので、ご覧ください。

画像3


No.1~No.7のノートをご覧頂いた方は、お分かりいただけると思いますが、上記の図表は、現在Alipay(アリババ)が垂直統合に提供している事業領域と提供機能を表しています。

この図表から読み解けることは、日本において、この面積で事業を営んでいるOMOプラットフォーマーは存在しないという事実です。特にOMOプラットフォーマーの候補として当方が印をつけている企業の祖業がオンライン(EC/SNS/通信)に寄っていることから、以下の2点において、中国のAlipay(アリババ)から大きく後れを取っていると考えています。

1つ目は、「オフラインの購買データ」を取得する術がないというものです。

2つ目は、一点目の事業課題の原因部分にあたりますが、「オンとオフの垣根を意識させないシームレスな顧客体験」の提供に至っていないという事実です。

アリババは「新小売」戦略を打ち出した以降、小売事業者との資本業務提携、M&Aを通じ、既存小売事業者のデジタル化やOMO化を支援することで、自らオフラインの購買データを取得し、生活者の360度行動理解を強烈に進めてきたことが分かっています。

一方で、項番2の図表において、オンラインの事業が祖業である事業者は現時点で、オフラインの流通小売との業務提携や、OMO領域でのパートナーシップが進んでおらず、お互いが別々の会員組織とIDを有し、一人の生活者の行動を、1つのIDで360度に把握するという状態に辿り着くまで相当に時間がかかりそうです。

また、項番2の図表おいて左手にプロットされていた事業者も、QRコード決済を中心としたキャッシュレス決済を通じ、有効なIDを取得できたとしても、その先で得られるデータは「決済データ」に留まり、、生活者が日々何を購入されているのか、という単品情報(商品情報)を取得できない状況が続きます。

それでは、Alipayモデル(アリババ)にちょっとでも近づくため、上記2つの顕在化した事業課題を、どのように解消すれば良いのでしょうか?私は、完全ではないものの、実際に課題解消を企図して動き始めていると理解した事例を含め、大きく2つの方向性が存在していると考えています。

大きな方向性の1つは、Alipay(アリババ)と同じように、オンラインのビックプレーヤーが、自らM&Aや、資本業務提携を通じ、オフラインの流通小売を傘下に納めていき、アリババと同じような形で、特にオフラインのデジタライゼーションを実現していくというものです。

単純にアリババが日本へ進出し、中国と同じような手段、手法を用いてOMOを実現できるのか?と問われると、中国の脆弱な経済インフラ、未成熟な小売市場のもとで最先端のテクノロジーを活用し、革新的モデルを構築した、というアリババ成長の背景にあるものを考慮することなく、ある意味で近代化し、成熟した日本の小売市場に持ち込んで、同様のイノベーションを起こせるのか、という点で疑問が残りますし、私は、率直に難しいという印象を持っています。

一方で、日本同様に近代化した市場環境の中で、イノベーションを興さんとしている企業として、Amazonが挙げられます。以下の記事では、真偽のほどは脇に置いて、具体的な屋号名も挙がっておりますので、ご紹介します。

アマゾンは高級食品スーパー、ホールフーズマーケットを17年に1兆4800億円で買収した。アマゾンの会員制通販「プライム・ナウ」を活用して、午前8時から午前10時までに注文した場合、2時間以内に食料品を届けるサービスをホールフーズの顧客に始めた。日本では食料品のネット通販は今は低調だが、やがて、米国並みに普及するといわれている。アマゾンが米ウォルマート・ストアーズ傘下の西友を買収して、食料品のネット通販の拠点にするのではないかとの観測が流れている。

こちらの記事で書かれている西友をAmazonが傘下に納めるか否か、はわかりませんが、アリババが生鮮スーパー「盒馬鮮生」(Hema Fresh)で提供しているような顧客体験を、垂直統合に実装するための早道であることは間違いなさそうです。

既存の巨大プラットフォーマーによる、食品スーパー、GMS、コンビニ、ドラッグストア、そのような食品を扱う流通小売に対するM&Aが成立する場合、日本のアフターデジタル化のスピードが早まる、その号砲として捉えることができると思います。

もう一つの方向性は、オフラインのOMOを志向するプラットフォーマーが既存の流通小売と緩やかに繋がり、互いのIDを連携することで、顧客体験をよりよく設計するとともに、協調してデータ活用を模索するというものです。

プラットフォーマーを志向する大手事業者同士の思惑や事情が先に立ってしまうため、その成否が不透明なことに加え、Alipay(アリババ)のように垂直統合に事業を進められるわけではないので、連携するIDの数や、得られるデータの質的な問題を抱えてしまいますが、その萌芽はいくつかの事例から見ることができます。

ここでは、「Line ShoppingGO」、「ドコモ dポイント」の事例ををご紹介いたします。

LINEの新サービス「SHOPPING GOは、LINEが提携する店舗で商品を購入する際、会計時にバーコードを提示するとLINEポイントがもらえる機能です。たとえば、コンビニでTカードなどを提示すると購入額に応じてポイントが貯まるのと同じ仕組みです。

大きなところでは、ビッグカメラ、コジマ、ソフマップ、ヤマダ電機などの大手の家電量販店が採用しています。この仕組みはLinePayでの支払いでは、家電量販店でどんな家電を購入されたのかがわからないところ、LINEウォレット内にある「マイカード(会員カード)」と連携しており、Line側と採用小売側で購買データを共有できる形を採っていることが肝になっています。

NTTドコモは顧客情報を活用したデータビジネスに参入する。2019年度内に共通ポイントサービス「dポイント」の会員情報を協業先の企業が活用できる事業を始める。会員数は7000万人規模で、個人の許可を得て買い物などのデータを分析する。共通ポイントによる顧客の囲い込みから一歩進み、ビッグデータを収益化する動きが広がりそうだ。

ドコモの場合、「d払い」、「dカード」といったキャッシュレス支払いに加えて、共通ポイントサービスの「dポイント」を展開しており、ローソンやマツモトキヨシ、ライフといた流通小売と、決済の加盟店契約ではなく、別の契約形態のお約束を個別に行っていると想定できます。

ドコモも、Lineと同様に、「決済データ」では入手できない加盟企業の購買データを共通ポイントという別の手段を用いることで、取得して活用できる状態を整備しようとしていることが垣間見えます。

「個人の許可を得て買い物などのデータを分析」するという一文からは、有効なIDの要件である「同意許諾」を取り付けながら、購買データの活用という事業課題の解決に着手している、という点をお読み取り頂けるのではないでしょうか?

アフターデジタル社会とOMOを読解するノート-なんでこのタイミングでQRコード決済-の結びと致しまして、QRコード決済を提供する事業者のうち、OMOを志向するプラットフォーマーが一様に目指すAlipayモデル(アリババ)に現時点で最も近づけそうな事業者を、私見で恐縮ですが、発表したいと思います。

日本においては、現時点で、オンとオフを垂直的に統合していこうとする事業者が存在しないため、将来与件、見通しも含める形になりますが、その事業者は「amazonの日本法人」だと考えています。

Amazonについては、米国におけるAmazonGoやホールフーズの買収といった形で、垂直統合にオンとオフ統合を進めようとしている他、日本においてもライフとの提携により、東京都内の7区で、Amazonプライム会員向けサービス「Prime Now(プライムナウ)」の展開を始め、お買い物体験をより良くするための実証的な取り組みを開始しています。

AmazonGoのような新たな業態の直営展開、大手の流通小売との資本業務提携そして、「Prime Now(プライムナウ)」のように、アライアンスを組んでオンとオフのIDを繋ぎ、生活者の多様化するお買い物のニーズに対応する、という3つのオプションを通じた日本での事業展開がありえるため、現時点の最もAlipay(アリババ)モデルに近づける可能性が高い事業者はamazonであるという結論に至りました。

8回にわたりお届けしてきた-なんでこのタイミングでQRコード決済-はいかがでしたでしょうか?アフターデジタルやOMOについて見聞きした事をおすそ分け致しましたが、お届けしたノートの中に、皆さんの理解につながる事例や、頭の整理に繋がる仕訳けや分類、体系化に役立つ図解や図表が一つでもあって、少しでもお役立ていただけるトピックがございましたら、嬉しく思います。

引き続き、マーケティング視点で読解力を高めるノートを発信してまいりますので、皆さんからのフォローをお願いできれば、幸甚です

宜しければ、-なんでこのタイミングでQRコード決済-
No.7 OMOプラットフォームの必要十分条件、も併せてご覧ください。

ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

 マーケティングの視点で見聞きし、読み解き、整理、体系化したこと事を発信しています。発信テーマ別に目次を用意していますので、気になる記事がありましたら、ぜひご覧ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?