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「業務執行取締役」って何のこと?

会社法では、「業務の執行(業務執行)」という言葉がしばしば使われています。
「業務の執行」という言葉は様々な場面で使われますが、特に「株式会社の業務を執行した」取締役は「業務執行取締役」とされ、「社外取締役」の要件を欠いてしまう(社外取締役になれなくなってしまう。)というのが重要な効果です(法2条15号イ)。
近年、社外取締役の存在や重要性は注目度を増しており、2021年3月1日に施行された会社法327条の2では、全ての上場会社は社外取締役を選任することが義務付けられています(*)。

しかし、「業務執行取締役」というのも変わった呼び方で、業務の執行をする(した)取締役もいれば、そうでない取締役もいるというのは、不思議な日本語だとは感じないでしょうか(私だけ?)。全ての取締役は会社の仕事を行い、その対価として報酬を受け取っているはずです。
そこで、会社法にいう「業務の執行」とは何か、何をすると業務執行取締役になってしまうのかといった点について、簡単にまとめてみたいと思います。

1. そもそも「業務執行」って何? 

法律用語としての「業務執行」は、「一般に、法人、組合等の団体において、定款変更、解散等の団体の存立、構成に関わる基本的事項を除き、団体の事業に関する様々な事務を処理すること。法律行為のみならず事実行為を含む。」という意味で使用されています(法令用語研究会編『法律用語辞典[第5版]』(有斐閣、2020年)239頁)。
このような用語法を踏まえ、会社法で「業務の執行」という言葉が使われる場合、

「会社法においては、『業務の執行』と『職務の執行』とは異なる概念を指すものとして用いられている。『業務の執行』とは、株式会社の何らかの事務を行うということではなく、会社の目的である具体的事業活動に関与することを意味する。」

相澤哲ほか編『論点解説 新・会社法』(商事法務、2006年)290頁


「一般には、会社の事業活動を遂行することをいう

田中亘『会社法[第3版]』(東京大学出版会、2021年)227頁

「業務の執行と職務の執行は概念が異なり、主語が異なるだけでなく、後者のほうが広い。監査・監督や意思決定(そのプロセスに関する行為を含む)は業務執行には含まれない。」

神田秀樹『会社法[第17版]』(弘文堂、2015年)215頁

等と説明されています。

そして、一般に、以下の行為は「業務の執行」には該当しない(=「職務の執行」に該当する)と整理されているようです。
1. 監査委員が取締役に対する訴えの代表として訴訟行為をすること。
2. 監査委員による執行役等の行為の差止め
3. 社外取締役による取締役会の招集、議論、議決権の行使
4. 社外取締役による株主総会の招集
5. 買収防衛策の発動の有無を、社外取締役が決定すること
6. 監査行為

また、取締役の報酬等も、「業務執行の対価」ではなく、「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」と定義されています(会社法361条1項)。

2. 「業務の執行」の限界とセーフハーバー・ルール

このような説明を踏まえると、会社の事業のために契約交渉を行ったり、契約を締結したりすることが「業務の執行」に当たることは分かるものの、MBOや親子会社間の取引の際に生じる(取締役と一般株主の間の)利益相反関係を避けるため、社外取締役が取引の相手方らと交渉等を行うことも、「業務の執行」に当たってしまうのではないか?という問題が生じます。
そこで、2021年3月1日に施行された会社法348条の2では、「取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるとき」に、取締役会の決議によって社外取締役に対して一定の業務の執行を委託できるものとし、そのような委託を受けた業務の執行を行っても、社外取締役の要件を欠くことにはならないことが明確化されました(**)。

社外取締役を巡る規制については、会社法に基づくものと有価証券上場規程等の取引所のルールに基づくものがあり、内容も複雑になっていますので、別の機会にまとめて整理したいと思います。

(*) 東京証券取引所が定めるコーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)では、プライム市場上場会社は少なくとも3分の1以上、その他の市場の上場会社においては2名以上の「独立社外取締役」を選任するよう求めています。

(**) 「第348条の2の規定は、現行法の解釈上、株式会社の業務の執行に該当しないと考えられている社外取締役の行為について、新たに株式会社の業務の執行に該当することとするものではない。」と説明されており、確認的な規定であると考えられます(竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務、2020年)152頁)。

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