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海ごみ拾いはボランティアじゃない新しい地球の遊び方

Interview report from 沖縄プロジェクト マナティ
Text by Hisako Iijima

散歩や旅の途中で楽しくごみ拾いができたら? 砂浜のごみに気づいた人がその場で拾って、すぐ捨てられる仕組みがあったら? 沖縄在住の金城由佳さんは、誰もが思い立った時に気軽に参加できるビーチクリーンプロジェクト「マナティ」を立ち上げました。人と人を繋げるコミュニケーションで持続可能な海ごみ削減の取り組みを実現した企業家の素顔に迫ります。

一番の問題は無関心。人ごとじゃなくなる仕組み作りを。

海に囲まれた沖縄は各地でビーチクリーンが盛んに行われています。しかし、多くは自治体や環境団体が参加者を募集して開催するボランティアイベントです。

「海ごみ問題は私たちが暮らす町から出ていくごみが原因なのだから、気づいた時にすぐ拾うのが本来。海ごみを拾いましょう!みたいな呼びかけをしないと誰もしない、人が集まらないというのはどうなんだろう‥‥と。海ごみはやっかい、拾うのは面倒というネガティブなイメージも覆したかった。気づいた人がすぐできて、みんなも心からやってみたい!と思えるビーチクリーンの仕組みを作ろうと思ったんです」

金城さんが立ち上げた「マナティ」はビーチクリーン“イベント”ではなく、“プロジェクト”。しかも、無償のボランティアではなく、有志で行う有料の自主活動です。浜辺に散乱している空き缶やペットボトルが気になったら、近くの“マナティパートナー”のショップや施設を探して、500円で専用のマナティバッグをレンタルします。拾ったごみはバッグに詰め込んで、借りた場所に返す。そして、地域のルールに則った適切な海ごみの分別方法を理解しているマナティーパートナーが処分するという仕組みです。

海と人に育てられた。「普通のこと」で社会は変わる。

マナティの活動は、沖縄の人々の意識を変えつつあります。金城さんが1件ずつ訪ね歩いて協力を依頼したマナティパートナーは現在、沖縄から全国約80箇所に広がりました。黄色に青のマナティがデザインされた可愛らしいマナティバッグもSNSなどで認知されるようになり、若い人たちの間では「マナティする?」が合言葉になっているようです。

「空気が汚ないなと思ったら、空気が気になる。海の汚染に気づいたら、海が気になる。私のミッションはみんなが平和に暮らせること。戦争体験がある沖縄ではそういう平和の概念は当たり前なんですよ。でも、その当たり前の平和が壊れる原因は戦争だけじゃない。家族や仕事場の人間関係、教育問題、政治経済の破綻、環境破壊……トラブルの火種はいろいろあって、そういうことに振り回されながら人は生きています。でも、だからこそ、一人ひとりが気になる問題に向き合ってみて、解決できそうなら、がんばれば良い。そういう小さなアクションを当たり前にできる社会が、平和な世の中と言えるのであって、理想論に聞こえるかもしれませんが、難しいことじゃないと思っているんですよ」

米軍基地の町で育った金城さん。そこにはご近所付き合いがちゃんとあって、周りの大人たちにも愛情をもらいながら、たくさんの友達と幸せな子供時代を過ごしたと言います。

「シェアリング・エコノミーという言葉は、都会が生み出したもの。田舎では良いことも、悪いことも、みんなで分かち合いますから。一人勝ちとか、独り占めがはびこる社会に平和は望めない。譲り合う気持ちや思いやりこそが、社会性なのだと思います。海ごみ問題もね、家庭ごみや産業廃棄物が原因なのだから、実はみんなそれぞれの問題なのだけれど、シェアすべきことだと理解することが大事。人ごとじゃなくて、自分のこと、そしてみんなのことでもあるという認識が広がれば、海ごみを減らすことはできるはずです。みんなの海を汚しちゃいけないという感覚は特別なことじゃない、普通のことですからね」

自分の街から海に出ていくごみ問題を片付ける「街マナティ」。

そして今年、マナティは次のステージに踏み出しました。遊び場のビーチから活動エリアを拡大し、海ごみの2割が流出すると言われる生活の場へ。自分たちが暮らす街からごみを撤去する、街マナティのスタートです。

「地球温暖化やコロナ禍も経て、人々の環境への意識は急速に変わりつつあります。マナティのビーチクリーン活動も多くの人が自主的に参加してくれるようになりました。でも、海岸だけきれいにしても、海ごみはなくならない。道に落ちている空き缶一つを拾えないような社会はおかしいし、意識を変えるべきです。でも、あくまで当たり前のこととして、ですよ。押し付けは続かないし、海ごみは人間がいる限り、永遠に無くならないのだから、ごみ拾いが日常の一部にならないと。ビーチは非日常だけれども、街は日常ですから。街マナティは、プロジェクトの発足当初から考えていたことなんです」

第1回目の街マナティが開催されたのは、那覇市の中心部。繁華街の広場にテントブースを設け、街ゆく人たちにも参加を呼びかけました。中にはマナティのインスタグラムを見て、友達と一緒に体験しにきた学生たちの姿も。お散歩気分でごみ拾いに出発した彼らは、道路下の川岸で不法投棄のごみの散乱を目にして、愕然とした様子。汗だくで賢明にごみを拾い集め、マナティバッグはあっという間にいっぱいになってしまいました。「最初は怒りが込み上げ、拾いながら悲しい気持ちになりました。でも、最後はスカッとしました。また、参加します!」と、爽やかな笑顔。それが、金城さんの目指す落とし所です。

「人や地球を救おう!だなんて、声高々に言うほどのことでもないし。ごみを拾った人に“You are great!”、気づいた自分に“me great!”、それで仲良く“We are great!”ぐらいの軽いノリでいいんです。私は環境問題の活動家じゃない。平和を望む一人の人間。同じ想いを持つ人たちが手を組んで正しく行動できるように、みんなを繋ぐ仕組みを作っているだけなんです」

180カ国が一斉にごみ拾い!ワールドクリーンアップデー

沖縄に訪れたこの日、9月18日は2021年の「ワールドクリーンアップデー」でした。WCDと呼ばれるこの活動は、延べ180カ国、2000万人が参加してそれぞれの地域、森林、海、公園などを同日一斉にごみ拾いする地球規模の清掃活動。そのもう一つの側面は、同じ目標を掲げ、国境を越えて世界が一致団結する平和活動でもあります。WCD沖縄実行委員会の鈴木祐介さんにお話を伺いました。

「WCDが産声をあげたのは、2008年。北欧の小さな国、エストニアの9人の若者が不法投棄されたごみがあふれた森をきれいにしようと、国中に呼びかけたのがきっかけでした。世界中で問題になっている海ごみは、沖縄も例外ではありません。美ら海がいつまでも美しくあるように。自然に恵まれた島々が、子供たちやその次の世代にとっても、きれいな島であり続けるように。沖縄の皆さんとこの運動を盛り上げていきたいのです」 若者たちが成し得たサクセスストーリーは、ヨーロッパからアフリカ、アジアへと広がり、日本でもWORLD CLEANUP DAY JAPANが始動。国連が2030年をゴールに設定したSDG’sの気運も高まって、多くの企業が賛同しています。

ワールドクリーンアップデーは、地球をきれいにする日。自分と世界が繋がる日。1億2千万の5%、600万の日本人が足元のごみに気づいて、未来を見つめ、1歩前に踏み出したら? そんな普通のことが世界を変えるきっかけになり得るのだと、心に刻む日でもあるのです。

人に伝えたいことはポジティブに、愛をこめて。人を集めたい時は楽しい活動で、ハッピーに。力のある1人とじゃなくて、たくさんの良い人たちと笑顔で繋がるコミュニケーションこそ、海ごみ問題を解決する糸口です。

プロジェクト マナティ 代表 金城 由希乃

最初は自分の半径数メートルから、ポイ捨てしない、落ちているごみは拾う。気張らずに、日常の中で一人ひとりができることをやっていく。その積み重ねが美しい地球の未来を作っていくのだと思います。

WORLD CLEANUP DAY 沖縄実行委員会 鈴木祐介

取材協力:マナティ 金城由希乃 沖縄県那覇市松尾1-21-61-202
取材協力:WORLD CLEANUP DAY

マナティ
漂着ごみと人を繋ぎ、いつでもどこでもビーチクリーンができるプロジェクトマナティのオフィシャルサイトです。個人でも、企業でも参加できる新しいSDGsアクション

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