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桜の満開日1200年の歴史

はじめに

大阪公立大学の青野靖之准教授による「京都の過去1200年間のサクラの満開日データ」は、タイトルの通り京都の桜の満開日を一年ごとにデータ化したものです。下記はその解説の一部です。

「京都では遷都以来,多くの人々の手により日記が書かれ,またそれを基にした編年体の年代記がまとめられてきました。これらの多くは現存しており,過去の毎日の天気などを知ることもできます。こうした日記類,年代記類の中には,花見をしたとか,花(サクラ)が満開になったとかが書かれている場合が結構あります。日記などは毎日の記録なので,そうしたも記事の書かれていた日付を集積していけば,『サクラの満開日』としての植物季節データとなるのではないか,と思われるわけです。そしてこうした『満開日』から,春先の気温を推定する方法さえ編み出せば,古い時代の春の気温もわかるのではないか,ということで,いろいろな日記を紐解きながら集めたのが,このページのデータです。」

「京都の過去1200年間のサクラの満開日データ」

つまり各種資料を集めて、漢文や古語を読み解き、暦を変換して、時には別の資料から推定してデータ化した、ということです。この発想および地道な研究活動を行った氏に感服しますし、その成果が突出して素晴らしいことは言うまでもありません。

書籍の成立と、保存に払われた並々ならぬ努力

一方でその各種資料は、不断の努力によって蒐集され、保管され、引き継がれてきた、ということも言えます。表に出ているよりも、さらに多くのほとんどは名もなき人の連携によって、このデータの作成が遂げられたと言えるでしょう。

例えば、最初の記録である812年の満開日は「日本後記」に記されています。これは勅撰(天皇指示による編纂)による史書です。編者は藤原緒嗣らです。

現在は国立公文書館に保管されていますが、国立公文書館には1971年に設立されたものです。その前は内閣文庫、さらに前は紅葉山文庫(もみじやまぶんこ / 図2)に保管されていました。紅葉山文庫は徳川家康が幕府開設後に江戸城内に設置した機関です。その目的は書物を蒐集して保管することで、書物奉行という専任の役職すらあったようです。

図1.紅葉山文庫が入る江戸城の蔵列(『江戸図屏風』)Wikipediaより

私はこのデータを知ったとき、その成立に血の滲み出るような努力が払われたことが想像され、いたく感動しました。どれくらいの人数が関わったか想像もつきませんが、そういった各人の努力の結晶によって保存され、青野氏らによって作られたこのデータを前に、とりもなおさず視覚化したいと思いました。そして、視覚化することによって多くの人達に知ってもらえるのではないかと考えています。

Tableauによる視覚化の解説

こちらのリンクをクリックしてご覧いただけます。

図2:桜の満開日1200年の歴史 by NAGASE Munehiko

データは左から時系列順に並んでいます。左側にスキマが多いのは、記録がなくデータに欠損が生じているためです。上下の位置関係は、満開日が早ければ下に、遅ければ上に配置されています。全体的には4月の一か月間にポイントが収まっています。一方で、向かって右側、近年の記録において、急激に下にポイントが集まっているのは、地球温暖化現象によるものと思われます。1200年というタイムスパンで見ると、他に同様の現象の年代は無く、この温暖化現象が近現代に特有のものであり、異常であることが垣間見えます。

桜マークにカーソルを合わせてみましょう。ポップアップが表示されます。その中に時代区分と出典、西暦、元旦から何日目に満開になったかの日数が表示されます。

図3:時代区分と出典が表示される

多くの人に知ってもらうことの重要性

シンプルなデータであり、シンプルな視覚化ではありますが、このデータの成立には、携わった多くの人々、日本の歴史と文化の豊かさという、とんでもない土台があると思います。そのデータを視覚化するという最終工程を担えることに幸せを感じます。

同時に、この成果を多くの人に知ってもらうべきだと考えています。記録するという文化活動の重要さについて理解ができると思うからです。こういったとんでもない成果は、記録を付けて保存し続けるという何気ない行為から成立するのだということを知ってもらい、今後も引き継いでいってもらいたいと思います。それによって、成果の連鎖と好循環が生まれるのではないでしょうか。

以上



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