すごく優しくてしょーもない
(ちょっとずつ作って集めていくお話の断片です。いつか、多分繋がる。)
夜行バスが怖かった。眠気の合間を縫って定期的にターミナルで空気を吸い込み、ふと気が付いたら東京にいる。自分が移動した距離と起きていた時間が釣り合わないからか、早朝の東京はまるで人類なんていなかったかのようにすましているからか、夜行バスから降りた時、どこか間違った場所にポツンと落とされたような気がして不安になる
午前5:40八重洲バスターミナルについた私は、キャリーバックを引っ張り、交差点の前で開かない目を擦っていた。まだ霧がかかったような薄ら白くて寒い1月の東京。
私の主人公が、消えた。
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小説を書き始めたのは、外に出るのも億劫な寒さの厳しい1月のことだった。特に大きな目標があったわけではなく、小説を書かなくては、と思った。実はそんなことは、もう何十回も思っていて、でも実際に書いたことはなかった。
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正直に行って仕舞えば、しょうもなかった。
優しさが、しょうもないな、と思った。一旦溢れたら、全部唇にのせてしまいたかった。でも、言えなかった。彼があまりに本当に優しかったから。
本当に優しくて、ありえないほどしょうもなかった。
優しさの前で、私はいつも無力だった。
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「大丈夫だよ」特に私の目を見ず、彼がそう言った。ストローで薄くなったアイスコーヒーをかき混ぜる。
「大丈夫、大丈夫だよ。大丈夫じゃなくても、まぁ、大丈夫だよ。」
すごく無責任な言葉だった。根拠もなく、真剣な眼差しもない。それなのに、どうしようもなく、救われてしまった。そのあまりの軽さに、救われてしまった。
きっと、どこにも行かないんだ、と思った。
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