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#23 罠3

『このクレジットカードはご使用になれません。お問い合わせは当社サービス窓口にご連絡ください』

『現在この携帯電話を使用しての通話および通信ネットワークサービスは支払い口座および基準アカウントの凍結によってご利用になれません、ご不明な点は―――』

『はい、お客様相談窓口でございます。お問い合わせの件は基準アカウントの確認が出来ませんので公衆電話からのお問い合わせにはお答えいたしかねます。店舗窓口にてお問合せ下さい』

 A社の社員でありながら弊社のデータセンター管理部門担当として秘密裏に産業スパイを働き、懲戒解雇された私に突きつけられたのは「社会生活からの追放」だった。
 あの悪魔のような秘書室長は「企業と名のつくすべての会社に雇用されないようにする」と言った。つまり正社員としての働き口が無くなるだけのはずが、離島を出て見れば所持していたクレジットカードや携帯電話、ネット通信すべてが利用できなかった。
 慌てて銀行の窓口に出向き問い合わせてみれば、唾棄すべき毒虫を見るかのような顔をした頭取が屈強な警備員を従えてやってくる。

「アカウントの凍結って……そりゃそうですよ、あなた、偽造された身分で口座やアカウントを作成されたでしょう? 私どもとしてもあなたに便宜を図ってあの企業に睨まれるのはごめんです。預金口座から貸付金を引いた残額を即刻払い戻しますので、お引き取りを」

 取りつく島もなくそう言われてしまったら、ぐうの音も出なかった。
 社から支給された高性能な携帯端末や高級品に囲まれた暮らしのすべてが泡と消え、離島から持ち出せたのは私服とわずかな私物、そして今払い戻されたわずかな現金だけが私の所有物だった。
 働き口がないだけじゃない。携帯電話を契約しようとしても、安アパートを契約しようとしても、すべて「信用不良」で弾かれた。
 A社の当時の上司を訪ねて行っても「そんな奴は知らん」と、門前払いを食らった。
 大都会を行きかう人々は幸せそうな、不服そうな顔をしながら経済活動を繰り広げている。
 人はいっぱいいて、みんな普通に暮らしている。
 その中で、私だけが誰ともつながらない、ぽっかりと開いたような孤独にはまり込み、街の真ん中で途方に暮れていた。