2018年 劇場公開or公開相当ベスト10
2018年は少し本気を出して映画をたくさん見ることにした。一年を通じて色々な映画に出会えたが、そのランキングを付けねばならないときが来た。何が優れているでも劣っているでもない、この映画たちを私が好きなだけなんだ。題名をクリックするとFilmarksの感想に飛びます。
1位 「四月の永い夢」中川龍太郎,2018
今年は日本映画も見てみようと思ってポスターだけ確認して見てみたら大ホームランだった。パーソナルな話になるので詳しくは書かないが、亡くなったあの人のことを思い出すと胸が締め付けられる。私は初海であり、彼女の亡くなった恋人なのである。
2位 「いい意味で小悪魔」ソフィー・ロレイン,2018
ポスターだけ心に引っ掛かっていたのだが、知り合いがチケットを余らせていると聞いてて飛びついた。良作の匂いを超えた大ホームラン。
大好きだった恋人がゲイであったことが分かって別れたシャルロットは仲の良いメーガンとオーブと共に近くのおもちゃ屋でバイトを始める。すると、そこは地上の楽園のように美男美女だらけであり、シャルロットはイケメン男子たちと付き合いまくる。すると、男たちはシャルロットが"コンプリート"することを噂し合い、彼女はそれに気が付き"男性に触れない運動"を展開する…
本作品は小さなコミュニティにおける"MeToo問題"の解決策を提示している。互いから離れることで当たり前だと思っていた互いの大切さに気が付き、やがて"互いを尊敬する"ことによって分断は解決へ向かう。
映像的にも狭い空間を広く見せる方法として合せ鏡を使う手法を使っていた。深く感動。正しく天才の所業。
3位 「コロンバス」コゴナダ,2017
コゴナダという怪しい響きを持った監督であることくらいしか知らなかったが、これが素晴らしかった。コロンバスという街そのものが主人公の一人であるかのような静謐な映像美が私の心を捉えて離さないのだ。ケイシーが"非対称"と言う割に人物を真ん中において対称性を意識させる映像、伸びやかな奥行きを感じさせる建造物、一枚の画で切り返しが完成する会話、まるで映像の教科書だ。画作りに併せて建築を語らせるという反則的な物語を持ってくることで、我々は映像の持つ力を音でも手に入れることができる。
4位 「ガールズ」マイ・ゼッタリング,1968
劇場鑑賞としたのは今作を入れるためである。ハリエット・アンデルセン、ビビ・アンデルセン、グンネル・リンドブロムというベルイマンのミューズを三人も集めた最狂の作品である今作は「ワンダ」(バーバラ・ローデン)のようなウーマンリブ運動を描いたスウェーデン映画である。しかし、同作と異なるのはゼッタリングが今作に効力すらないと説く点であろう。
アリストファネス『女の平和』の地方巡業に回る三人の女優とその夫たち、共演俳優二人が巡る狂乱騒ぎの映画。啓蒙家ビビによるウーマンリブ運動の開始、二人の女優ハリエットとグンネルの追随、大衆主に男性たちの無関心、運動が最盛期を迎えて自己分裂を始め、崩落する姿を克明に描写しつつ、享楽的な映像美で流し去る。最終的に"上手にやればこうなならないんだよ"というメッセージと共に大団円に収束する。
5位 「Cold War」パヴェル・パヴリコフスキ,2018
そこまで面白味のない話を最強のショットで紡ぐ「イーダ」で世界的に認知されたポーランドの精鋭パヴリコフスキ。最新作である今作ではショットに加えて音楽も手にしたことで"鬼に金棒"という状態に進化した。冷戦下のヨーロッパを縦横無尽に駆け巡る物語は"困難な時代の困難な愛"についての話であり、ラストも少しナイーブすぎる気もする。しかし、そんなこと考えられないくらいショットと音楽が素晴らしい!
6位 「ノベンバー」ライナル・サルネ,2017
人生初エストニア映画。原作はエストニアの大ベストセラーとのことだが、今作が原作に忠実ならかなりぶっ飛んだ話であること間違いなしである。
クラットという使い魔がバグって爆散するアバンタイトルから私の頭をぶち抜いた。アニミズム的な幻想世界として魔界と現世が交わり、現世での生活の延長線上として狼女や死者が登場する。人々は厳しい冬を乗り越えるために死者にすら物乞いし、悪魔との契約をちょろまかし、嫉妬から別の女を殺してもらう契約をする。
サルネの撮る"白"が柔和で、全てを包み込むような不思議な力を持っている。そして"白"が映えるほどに"黒"が際立ち、闇夜の悪夢として作品を支配する。今作はモノクロでなければならない宿命にあった。
7位 「心と体と」イルディコ・エニェディ,2017
実はその後に見たエニェディ作品が強すぎたせいで内容をあんまり覚えていないのだが、イルディコ・エニェディという監督をしったきっかけとして感謝しているので掲載。"あなたのことを死ぬほど好きです"という言葉は非常に心に残っている。
8位 「パンとバスと二度目のハツコイ」今泉力哉,2018
公開日が誕生日だったこと、主演が深川麻衣だということ。見に行く理由はそれだけで十分だった。恋愛感情を複雑骨折させた市井ふみ、そんな彼女の感情を知りつつ前の妻が忘れられない湯浅たもつ、二人の間を絶妙な距離感で駆け巡る石井さとみ。錆びついた感情ベクトルが再び色を得たとき、全てのベクトルが私の心をぶち抜いた。
"それは正しいけど、正しいだけだよ"。この言葉で一生今泉監督に付いていこうと思った。Alone Again(Naturally)は私も分かって嬉しかった。
9位 「象は静かに座っている」フー・ボー(胡波),2018
東京フィルメックスからエントリー。尺を半分にしろ(4時間→2時間半)と迫られた監督が自殺してしまったことで有名になり、ベルリン国際映画祭で絶賛された中国映画。どうしようもない社会の底を低空飛行しながら、座ったまま動かない象のいる遊園地を目指す男女四人組の話。確かに無駄な要素も多いが、全方位どこに進んでも今より悪くなるという状況の中で全く異なる四人の間で象という存在が共通の希望として存在するというのは普遍的で泣けてくる。
個人的には8時間くらいあげて不満な挿話も全て消化してほしかった。でも、これくらいスキのある方が「スリー・ビルボード」と同じく好きになれるんだろうと思う。
10位 「ブラ物語」ファイト・ヘルマー,2018
東京国際映画祭からエントリー。友人の誘いに乗って見に行ったホームラン作品。映画終了後のQ&Aで監督、ドゥニ・ラヴァン、パズ・ヴェガなどのサインを貰って、彼らと握手までしてもらった。
物語は「シンデレラ」のガラスの靴がブラジャーになった新世代のプリンセス探し映画であるが、出オチに終わらず予想打にしない方向へ舵を切る物語に感動した。そしてシンデレラとして登場するチュルパン・ハマートヴァも少ない登場時間ながら、あの物語を解決できる唯一の女優として素晴らしい包容力を以て映画を包み込む。素晴らしい。
番外編 「ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト」ビー・ガン(畢贛),2018
映像は大好きだが思想の違いからアンビバレントな感情を持たざるを得ない監督にビー・ガンがいる。ビー・ガンは記憶や夢を単なる連続量として扱い、長回しで過去を巡ることを好む監督であり、デビュー作「凱里ブルース」でも共通していた。私の考えでは異なる。記憶や夢とは本来不連続的であり、それらが有り得ない接着を繰り返すことで連続的になると思っている。まさに「パプリカ」(今敏)の世界である。
しかし、映画そのものが私の記憶となってしまえば、映画を思い出すときは不連続的になってしまう。夢の浮遊感を扱った50分の長回しが、記憶の中で不連続的に再生されるのだ。これを狙っているとしたら天才だが、おそらく違うので、やはりアンビバレントにならざるを得ない。
・終わりに
今年の記事はこれでおしまい。良いお年を…
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