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ラテンアメリカ映画

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最近になってようやくラテンアメリカ映画の魅力に気付いたので、こまめに更新する予定です。あくまで予定ですが。
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#ヴェネツィア映画祭

【ネタバレ】パブロ・ラライン『伯爵』チリ、ピノチェトから受け継がれ生き延びる負の遺産

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。パブロ・ラライン長編10作目。チリ軍事政権の独裁者アウグスト・ピノチェトは、実は御年250歳となる吸血鬼だった。フランスの孤児院で育ち、ルイ16世の国軍に入隊するも、フランス革命では王の味方をしなかった。処刑されたマリー・アントワネットに魅せられた彼は、あらゆる革命に反抗するためハイチやロシア、アルジェリアと世界中を回ることとなって100年、今度は王の居ない国で王となるため、1935年にチリに上陸した。そこから先は御存知の通り。

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ『バルド、偽りの記録と一握りの真実』重症化したルベツキ病と成功した芸術家の苦悩

2022年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ長編七作目。今回のDoPはエマニュエル・ルベツキじゃなくてダリウス・コンジなのだが、コンジに失礼なんじゃないかというくらい似非ルベツキっぽい長回しとか視点の低い映像ばかりで困惑する。キュアロンも『ROMA』でルベツキを使えなかったとき、ルベツキからルベツキムーヴを習得して自分でカメラ回してたので、自分語りはルベツキで、という風潮でもあるんだろうか?荒野を走る男が空を飛ぶ影、出産直後に子宮に戻

ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン『コンペティション』アルゼンチン、これは風刺劇か茶番劇か

2021年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。なんとペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラスの本格的な共演は初らしい(『アイム・ソー・エキサイテッド!』で少しだけ共演、『ペイン・アンド・グローリー』で時代は離れているが親子を演じた)。大金持ちが自分の名前を後世に残すために傑作映画を作ろうと思い立ち、トイプードルみたいな髪型の監督ローラに癖強めな俳優二人を集めて兄弟の話を撮るという話。アントニオ・バンデラス演じるフェリックスは、演技は演技だけで良いと考えていて、逆にオスカル・

ミシェル・フランコ『Sundown』メキシコ、ただ太陽が眩しかったから…

傑作。2021年ヴェネツィア映画祭コンペ部門出品作品。メキシコはアカプルコのビーチで寛ぐニール、その妹アリスと彼女の二人の子供アレクサとコリン。並んで寝椅子に転がって日光浴を楽しみ、ホテルのレストランでテーブルを囲み、ダイビングショーを観て、仕事をするアリスを諌めるなど、一見仲は良さそうだ。そんな中、ニールとアリスの母親が亡くなったという知らせを受けてロンドンへと急ぐ帰り道、ニールは"ホテルにパスポートを忘れた"として一人アカプルコに残る。しかし、ニールはホテルに戻ることなく

パブロ・ラライン『エマ、愛の罠』規格化された"愛"への反抗と自由への飛翔

圧倒的大傑作。真夜中、街中の信号が一つだけ燃えている。通りの奥に光る信号が青々と光る中、赤々と燃えている信号を背に防火マスクを被った主人公エマが満足そうに歩いてくる。これまで故国チリの近過去(『NO』『トニー・マネロ』)や伝記もの(『ジャッキー』『ネルーダ』)を撮っていたチリの俊英パブロ・ララインはキャリア8本目にして初めて現代を舞台にした映画を撮った。バルパライソの街は光に溢れた魅力的な街として映像化され、躍動感溢れるダンスをバキバキにキマったショットでぶち抜いていくのは流