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ラテンアメリカ映画

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最近になってようやくラテンアメリカ映画の魅力に気付いたので、こまめに更新する予定です。あくまで予定ですが。
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#チリ

【ネタバレ】パブロ・ラライン『伯爵』チリ、ピノチェトから受け継がれ生き延びる負の遺産

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。パブロ・ラライン長編10作目。チリ軍事政権の独裁者アウグスト・ピノチェトは、実は御年250歳となる吸血鬼だった。フランスの孤児院で育ち、ルイ16世の国軍に入隊するも、フランス革命では王の味方をしなかった。処刑されたマリー・アントワネットに魅せられた彼は、あらゆる革命に反抗するためハイチやロシア、アルジェリアと世界中を回ることとなって100年、今度は王の居ない国で王となるため、1935年にチリに上陸した。そこから先は御存知の通り。

クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ『オオカミの家』チリ、洗脳アニメ映画の恐怖

大傑作。チリの山奥で形成された逃亡ナチ党員たちによる理想郷コミュニティ"コロニア・ディグニダッド"で偶然発見された作品を監督二人がチリ政府支援の下でレストアし、映画内での行動を取らないよう啓発するために製作された作品という『ロリータ』並に面倒な体裁を持った作品。コロニーで育った少女マリアが、コロニーを抜け出し、彼女を追うとされる"オオカミ"に怯えながら逃避行を続けるさまを独特なコマ撮りで表現した作品である。"独特な"手法としたのは、実写の部屋と家具を使いながら、壁中に人やモノ

パブロ・ラライン『エマ、愛の罠』規格化された"愛"への反抗と自由への飛翔

圧倒的大傑作。真夜中、街中の信号が一つだけ燃えている。通りの奥に光る信号が青々と光る中、赤々と燃えている信号を背に防火マスクを被った主人公エマが満足そうに歩いてくる。これまで故国チリの近過去(『NO』『トニー・マネロ』)や伝記もの(『ジャッキー』『ネルーダ』)を撮っていたチリの俊英パブロ・ララインはキャリア8本目にして初めて現代を舞台にした映画を撮った。バルパライソの街は光に溢れた魅力的な街として映像化され、躍動感溢れるダンスをバキバキにキマったショットでぶち抜いていくのは流