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ラテンアメリカ映画

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最近になってようやくラテンアメリカ映画の魅力に気付いたので、こまめに更新する予定です。あくまで予定ですが。
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#コロンビア

マルタ・ロドリゲス&ホルヘ・シルバ『The Brickmakers』コロンビア、搾取されるレンガ職人一家の物語

マルタ・ロドリゲス&ホルヘ・シルバの通算二作目。当時、コロンビア政府は映画製作に一切の関心がなく、ドキュメンタリー映画の製作は夢のまた夢だった。そんな中でマルタ・ロドリゲスは社会学者/人類学者として社会から疎外された階級の搾取に関心を持ち、彼らの姿を映像に焼き付けることを信条に活動を続けてきた。1962年に渡仏して3年間滞在した彼女は、そこでジャン・ルーシュの映画と出会い大きな影響を受けた。帰国後は映画製作に乗り出すも身内を含めた誰からも援助を受けられず、唯一独学で写真家にな

アピチャッポン・ウィーラセタクン『MEMORIA メモリア』コロンビア、土地と自然の時間と記憶

2021年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。前作『光りの墓』以降、監督は軍事政権下のタイでは映画を作らないと公言していており、本作品は確かにコロンビアを舞台としている。主人公はボゴダで入院する妹を見舞う蘭農家の女性ジェシカである。彼女は自分にしか聴こえない爆発音に悩まされており、身の回りでの不思議な現象に巻き込まれていく。爆発音に関して、知り合いのフアンを通して教え子で音響技師の青年エルナンを紹介してもらい、爆発音を再現してもらうことにする。エルナンはジェシカに自分のバンドを紹

フェルナンド・トルエバ『あなたと過ごした日に』暗闇を呪うな、小さな灯りをともせ

コロンビアの疫学者で大学教授、そして自由の信奉者だったエクトル・アバド・ゴメスの後半生を、息子の視点で描いた同名小説(息子著)の映画化作品。物語は息子青年時代の1983年から幕を開け、大学教授職を解雇される最後の式典に呼ばれたところから、過去(1971年)を回想し未来(1987年)へと進んでいく。徹底的に子供目線で語られることから、実際の父親の業績や学生たちや他の大人たちとの関わり合いよりも、家族の物語が中心にある。それでも、唯一の息子という点で姉たちの会話の輪に入れない彼が

Camilo Restrepo『Encounters (Los conductos)』髭面ノ怪人、夜道ヲ疾走ス

夜の道をバイクでひた走る髭面の男。誰もいない真夜中のトンネルを白い電灯が煌々と照らし、光の届かない夜は真っ赤に染め上げられている。長らく短編映画を製作し続けてきたコロンビアの映画作家 Camilo Restrepo の初長編作品であり、今年のベルリン映画祭のエンカウンター部門に選出された作品でもある。冒頭である男を射殺した髭面の男ピンキーが、夜に逃げ回り、昼は仕事をするという実に奇妙な映画で、特に夜のシーンはフィルムで撮影されたレトロな色調と陰影が相まって、近未来のディストピ