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ラテンアメリカ映画

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最近になってようやくラテンアメリカ映画の魅力に気付いたので、こまめに更新する予定です。あくまで予定ですが。
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2021年3月の記事一覧

イウリ・ジェルバーゼ『ピンク・クラウド』コロナの時代の人間生活

冒頭でこんな言葉が登場する。この映画は2017年に執筆され、2019年に撮影されたものであり、現実とのリンクは偶然である、と。この"現実"とはコロナ禍のことを指している。本作品はSF映画のはずが、その世界が早い段階で現実になってしまったタイプの珍しい映画なのだ。扱っているのはウイルスではなくピンク色の致死性ガスであり、それが突如として充満した世界で、ブラジルに暮らすある男女は唐突のロックダウン生活を迫られることになる。しかも、パーティで昨日出会ったばかりの男の家で起きたその日

ジョアン・パウロ・ミランダ・マリア『Memory House』記号と比喩に溺れた現代ブラジル批判

真っ白に光り輝く近未来風の工場で、防護服を来た男が穴の空いた自身の手袋を見て慌て始める。彼の名前はクリストバム。古くからこの地に暮らす黒人の老人である。舞台はブラジルの南部らしいが、既に流入したドイツ人のコミュニティが完成しており、元から暮らしていたクリストバムのような有色人種はコミュニティから疎外されているのだ。幾度となく無神経な侵入者たちに蹂躙される彼の家は既にボロボロで、落書きだらけの壁を剥げば壁画が眠っており、そこかしこに土着文化的なアイテムが転がっている。彼と白人た