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世界の(未)公開映画

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東欧映画、ロシア映画以外の未公開映画についてまとめています。最近は公開された作品も掲載しています。全ての記事をどこかに帰属させてあげたいという親心です。見逃してください。
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2024年5月の記事一覧

João Canijo『Living Bad』ポルトガル、子供を支配したい毒親三部作

2023年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。ジョアン・カニホ(João Canijo)長編最新作二部作。同じ映画祭のコンペ部門に出品された『Bad Living』と対になっており、同作ではホテル経営をする親子三代、本作品ではそのホテルにやって来た客の目線で同じ時間の出来事を描いている。本作品は似たような境遇にある三組の客を三部構成で描いており、客同士の直接的な関わりはないものの、同じシーンを別の視点で見ることが出来るという点で『Bad Living』を別視点で3回見

マルコ・ベロッキオ『甘き人生』落下と家と死への無意識的な執着

傑作。マルコ・ベロッキオ長編23作目。マッシモ・グラメッリーニによる同名小説の映画化作品。子供時代に母親を亡くした主人公マッシモは大人になっても母親の幻影に縛られ続けている、という話。母親が飛び降り自殺したことは知らされず、劇中でも母親の遺体は全く映されなかったはずなのに、知ってか知らずか映画は序盤から落下と死に執着し続ける(あと、異様な数のナポレオンの胸像にも)。それが高低差に結びつかないのは落下と死の直接的な関係性を知らないからだろう。1992年の実業家自殺、1993年の

アラン・タネール『白い町で』ブルーノ・ガンツ、リスボンの町を歩き回る

傑作。1983年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。アラン・タネール長編八作目。今回はスイス人海洋整備士ポールが、航海中に立ち寄ったリスボンに留まって、何もしないままただリスボンの街を歩き回る映画。このある種の不条理さ、リタ・アゼヴェード・ゴメス『The Sound of the Shaking Earth』を思い出した。どっちもDPがアカシオ・デ・アルメイダだったということを後から知って感動している。不条理さというと、冒頭で秒針が逆向きに進む時計が登場しており、観客の時間が正

アラン・タネール『Messidor』スイスに降り立った二人のアナーキー女神

大傑作。1979年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。アラン・タネール長編六作目。試験前の休暇で都市部の家を出た学生ジャンヌとローザンヌにいる父親を尋ねるマリーは、偶然同じ道でヒッチハイクしていたことで知り合う。二人の初登場シーンから強烈だ。交通量の多い道路の騒音に悩むジャンヌは、見晴らしの良いベランダに背を向けながら旅に出る決意を語る。ローザンヌ行きの切符を無くしたマリーはそのままホームの階段を降りていく。様々な移動手段が登場する本作品の中で、後に飛行機に向けて発砲しているこ

マルコ・ベロッキオ『マルクスは待ってくれる』ベロッキオ、双子の弟に向き合う

マルコ・ベロッキオが自身の家族を撮ったドキュメンタリー。彼が29歳のときに亡くした双子の弟カミッロについて、生き残った家族たちが思い返すという内容。才能に溢れる兄ピエルジョルジョと優秀すぎる双子の兄マルコに対して、平凡なカミッロは人生を迷い続けたことが明かされる。兄妹はてんでバラバラの方向を向いてそれぞれが独立して生きていたと語られる通り、ベロッキオ家のメンバーの記憶はだいぶざっくりしていて、カミッロの当時の恋人の妹という距離感の女性が推測ではない生身のカミッロを一番覚えてい

マルコ・ベロッキオ『蝶の夢』会話を止めた舞台俳優とその家族たち

傑作。マルコ・ベロッキオ長編13作目。若き舞台俳優マッシモは14歳の頃から日常会話を拒否し、舞台上でのみ台詞を話す生活を続けていた。ある日、彼の舞台を観て感動した演出家がその事情を知り、彼の人生を舞台化するべく彼の母親に脚本執筆を依頼した。それをきっかけに、考古学者の父親、詩人の母親、物理学者の兄、愛に迷うその妻アンナはマッシモと向き合い、それぞれのアプローチで彼をどうにかして喋らせようと苦心する。しかし、マッシモは彼らには口も心も開かず、森の小屋に暮らす少女にだけ心を開いて