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世界の(未)公開映画

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東欧映画、ロシア映画以外の未公開映画についてまとめています。最近は公開された作品も掲載しています。全ての記事をどこかに帰属させてあげたいという親心です。見逃してください。
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2023年8月の記事一覧

ロルフ・デ・ヒーア『悪い子バビー (アブノーマル)』オーストラリア、母親の呪縛から逃れるとき

1993年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。ロルフ・デ・ヒーア長編四作目。アデレードの工業地帯に暮らす35歳のバビーは、虐待的で狂信的な母親フローレンスに監禁され、文字通り"飼われて"いる。外は毒ガスが充満していると言われ続け、脱走の意志は削がれていた。まるでカスパル・ハウザーみたいな話だ。そんなとき、彼の存在を知らなかった父親が帰ってくる。独り占めしていた母親を取られてしまい、外の世界からマスクもせずにやって来る、この無礼な男の登場によって虐待が過激化したために、バビー

ロルフ・デ・ヒーア『ディンゴ』マイルス・デイヴィスが復活する話

ロルフ・デ・ヒーア長編三作目。オーストラリアの田舎町に住む青年ディンゴは、20年前に出会ったジャズミュージシャンの演奏が忘れられない。空を飛ぶことへの憧れを描いた前々作『ヒコーキ野郎 / スカイ・キッド』、空から来た侵略者との不可視の戦いを描いた前作『エンカウンターズ / 未知への挑戦』の路線を引き継いで、本作品でもジャズミュージシャンのビリーは、ディンゴ少年の頭の真上を通って田舎町に降り立つ。その後は大金持ちになって帰郷した親友と妻を取り合う云々という超絶どうでもいい三角関

ロルフ・デ・ヒーア『エンカウンターズ / 未知への挑戦』オーストラリアの"NOPE"は超常現象と戦う

大傑作。ロルフ・デ・ヒーア長編二作目。前科者のエディは兄リチャードの経営するレイヴンズ・ゲートという孤立した農場に世話になっていた。ある日、飼っていた羊が突然全滅するという事件が起きてから、農場では奇妙な出来事が頻発するようになる。二つの車が同時に動かなくなったり、死んだ鳥が降ってきたり、水のタンクが空になったり。これらの異常現象の原因を調べようとする捜査官の物語も微妙に入ってくるが、基本的には一般人が超常現象に巻き込まれていく様子が描かれている。それでも、エディがリチャード

マイケル・スノウ『Presents』"見ること"の破壊性と"見たこと"で失われる瞬間について

大傑作。まず登場するのは画面中央に縦方向の棒状に圧縮された画である。これが徐々に変化する電子音と共に横方向へと広がり、縮小された正規画面を経て、縦方向に縮んでいく。続いて、真っ青な壁紙のベッドルームで眠る女→彼女が起き上がり、真っ赤な壁紙のリビングに行って戻ってという様を横移動の長回しで捉える。これはシットコムのセットのようでもあり、冒頭の画面変形と共に"覗き穴"としての映画の役割を強く想起させる。台詞も話しているが、針飛びしたように蹴躓く音楽とシーン番号をセットの外側から叫