マガジンのカバー画像

世界の(未)公開映画

149
東欧映画、ロシア映画以外の未公開映画についてまとめています。最近は公開された作品も掲載しています。全ての記事をどこかに帰属させてあげたいという親心です。見逃してください。
運営しているクリエイター

2021年6月の記事一覧

マイケル・スノウ『中央地帯』世界を破壊する三軸回転から宇宙を見る

大傑作。ズーム映画『波長』とパン/チルト映画『Standard Time』『←→』に続く一つの集大成的な作品。NYからトロントに帰国したスノウは、本作品のためにカメラを地面スレスレから上向きまで様々動かせる機械を設計/製作し、それをケベックの山岳地帯に設置して撮影を行ったらしい。最初のパートでは、真下を向いてカメラ架台を中心に360度パンしていたカメラが、電子音と共に少しずつ上方向にチルトしていって景色を捉えていく様を描いている。一回転してからチルトするわけではないので、そこ

パトリック・タム『Love Massacre』愛と殺、相反する要素が共存する魔法

人生ベスト。徹頭徹尾異様で不気味な映画。大衆的ジャンルの見直し的探求を使命としていたらしい香港ニューウェーブの中でも、パトリック・タムは芸術的野心と商業的配慮の間で揺れ動き続け、その緊張と矛盾を鮮明に提示し続けた監督らしい。そんな彼の監督二作目が本作品。舞台はサンフランシスコだが、そんな感じもせず、ただただ香港から遠いという地理的な要因で恐怖を煽る一要素として機能しているのがまず興味深い。映画はジョイとルーイというカップルが喧嘩して、精神的に不安定なジョイがリスカする場面で幕

リタ・アゼヴェード・ゴメス『The Sound of the Shaking Earth』絵画は語らない詩、詩は見えない絵画

大傑作。ある作家が、自身の書いている小説の二転三転する内容についての構想を友人たちに語っていく。周りを沼で囲まれてた土地で暮らし続け、そこから出たことがない男と釣りをするが永久に魚を捕まえられない水夫。前者は後にナサニエル・ホーソーン『ウェイクフィールド』のように、友人との旅行をブッチして友人宅の隣にあるホテルに滞在を続ける作家本人をモデルにしているため、小説の内容が二転三転する中で作家と登場人物の存在が同化していく。後者は作家の友人シプリアーノをモデルにしているが、彼は四人

ブリュノ・デュモン『ハデウェイヒ』垣根を越えて神を求める愛

ハデウェイヒとは、13世紀に実在した神秘主義者の女性詩人である。本作品の主人公はキリストへの恋文を書いたとも言われる詩人の名を冠したセリーヌ・フェル・ハデウェイヒだ。冒頭、修道院にいる彼女は食事を取らないという方法でキリストへの深い"愛情"を示そうとするが、死なれては困る(=殉教者)として修道院から追い出される。彼女は困った様子もなくパリにある裕福な実家に帰り、機能不全に陥った家族の下へ戻る。その後、パリの街でヤシンというイスラム教徒の青年に出会い、彼のすすめで彼の兄であり宗