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世界の(未)公開映画

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東欧映画、ロシア映画以外の未公開映画についてまとめています。最近は公開された作品も掲載しています。全ての記事をどこかに帰属させてあげたいという親心です。見逃してください。
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2019年11月の記事一覧

カーステン・ジョンソン『Cameraperson』世界と私、仕事と私、カメラと私の25年

過去25年もの間ドキュメンタリーのカメラマンとして活動してきたカーステン・ジョンソンが、他の映画のために撮った没テイクや新たに撮った映像を自分の"回想録"として見せたいというのが本作品。ブルックリンのボクシング試合、戦後ボスニアでの日常風景、ナイジェリアの看護師の仕事風景、ニューヨークでのジャック・デリダとの遭遇、アフリカでのお祭り、サッカーの試合、マイケル・ムーアの作品への参加などのフッテージを時系列を追わずに(明らかに画面サイズと解像度が違うので…)並べている。普通のドキ

フランコ・ピアヴォリ『Voices Through Time』 ある村の人々の懐古的年代記

空を真っ赤に染めながら太陽が昇り始め一日が始まり、映画も始まる。光を反射する湖は魚の動きとともに波打ち、人気のない街で鳥のさえずりがこだまする。イタリアの田舎で暮らす人々の生活を情緒的に掬い取ったセミドキュメンタリー的な本作品は、有効な会話を一切含まないことで普遍的な世界を提示する。発される会話は"話している"事以外の意味は持たない。風の音、鳥のさえずり、河のせせらぎといった自然の音から、人々の会話や歌声、鐘の音、車のエンジン音、クラクションといった人工の音、ダンスや教会音楽

ガイ・マディン『臆病者はひざまずく』父親の重責から逃れた"臆病者"の末路

人生ベスト。医者が誰のものとも分からない精子を顕微鏡で覗くと、そこではホッケー選手が忙しなく動いていた。悪夢のような観客席のないホッケー場で選手たちが動き回っているのだ。そして、その中のスター選手が頭痛により途中退場する。名前はガイ・マディン、20代の青年だ。『The Saddest Music in the World』のプレプロダクション中にスパッと撮ったという自伝三部作の一編であり、最高傑作と推されることも多いマディンの長編七作目。サイレント映画サンプリング的な手法を踏