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アフリカ映画

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自身の映画記事のうち、アフリカ映画に区分されるものをまとめています。ロシア、ハンガリーに比べると競争率は高めですが、頑張ります。
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#カンヌ映画祭

カウテール・ベン・ハニア『Four Daughters』チュニジア、ある母親と四人姉妹の物語

傑作。2023年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。2024年アカデミー国際長編映画賞チュニジア代表。カウテール・ベン・ハニア長編六作目。前作『皮膚を売った男』が激しく嫌いだったのでハードルは下がるどころか若干ナメてかかっていた節すらあったが、これは凄まじかったので反省中。映画は画面に登場した監督が緊張していると零す場面から幕を開ける。彼女はオルファと彼女の四人姉妹の娘たちの映画を撮るにあたって不思議なアプローチを採っていたからだ。それは、"消えた"上二人の姉ゴフランとラフマを女

ナビル・アユチ『カサブランカ・ビーツ』モロッコ、不満と魂をリリックに乗せて

2021年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。カサブランカ郊外に若者向けの文化センターを開設した監督本人の実体験を基にしているらしい。本作品の主人公は、自身もラッパーであるアナス・バスブーシ演じるアナスである。彼は文化センターで子供たちにラップを教えるために見慣れぬ土地に踏み込んだ。映画は大きく二つのパートに分かれている。一つはアナスと生徒たちの交流風景である。ラップでは宗教や政治のことは話せないといった議論、ラップの練習、みんなで部屋の壁を塗り替えるなど全員が仲良くヒップホップ

マハマト=サレ・ハルーン『Lingui, The Sacred Bonds』チャド、聖なる連帯

2021年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。マハマト=サレ・ハルーンは今回で三回目の選出となる。本作品は国家と宗教によって二重に中絶が禁じられた国で、中絶を試みる15歳の少女マリアの物語である。しかし、原題"Lingui"及び英語副題"聖なる絆"の示す通り、本作品は制度自体ではなく、それを前にした人々の共助連帯を描いている。全体的な描写がドライで静かなのも相まって、少々やりすぎなくらい敵と味方がすっぱり分かれ、敵はストレートに嫌なことをしてきて、味方もストレートに助けて終結する

フローラ・ゴメス『Tree of Blood』ギニアビサウ、魂の宿る木を巡る寓話

1996年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。カンヌ映画祭コンペ部門に選出された数少ないギニアビサウ映画の一つ。監督フローラ・ゴメスはギニアビサウを代表する映画監督の一人である。1949年に文盲の両親の下に生まれた彼は、アントニオ・サラザールによるポルトガルの植民地体制に強く反発していた。1972年にキューバにある映画芸術産業研究所へ渡ってサンティアゴ・アルバレスの下で映画製作の勉強を始め、翌年に故国が独立したため帰国する。彼はそこで独立記念式典を撮影するなどの活躍を見せた他、植

Ayten Amin『Souad』SNS社会と宗教との関係性、のはずが…

カンヌレーベル選出作品。SNSの発達した現代エジプトで女性として生きることを探求するドキュメンタリータッチの作品かと思えば、突然逸脱して個人の物語になるという不思議な映画。バスに座って隣の女性と会話する主人公ソアドを捉えた冒頭は非常に興味深い。年配の女性には"自分は医学生で、婚約者が兵役で遠くにいる"と伝えるが、同じバスで別の若い女性が隣に座っているときは"旦那の姉が旦那へのプレゼントにケチを付けてくる"と全く別のことを話し始めるのだ。これはネット社会における電子的なペルソナ

デュド・ハマディ『Downstream to Kinshasa』コンゴ川を下って1700キロ

所謂"六日戦争"は、第二次コンゴ戦争(1998年~2003年)中期の2000年6月5日から10日にかけて、コンゴ民主共和国キサンガニを中心にウガンダ軍とルワンダ軍の間で繰り広げられた一連の武力衝突を指す。この戦闘は全期間の中で最も苛烈なもので、6000発以上の弾薬が使用され、市街地の大部分が破壊され、4000人を超える死者と3000人を超える負傷者を出した。そして、その大半は民間人だった。国際司法裁判所はウガンダに犠牲者遺族と被害者に対する補償を命じたが、そのほぼ全てが首都キ

マティ・ディオップ『アトランティックス』 過去の亡霊と決別するとき

開発の進むセネガルは首都ダカール。建設中の建物がむき出しのコンクリートを乾いた太陽光の下に晒す中、賃金を支払われない労働者たちは管理たちに食って掛かる。しかし、その後の物語は我々の想像する所謂"貧困映画"や"格差恋愛映画"とは一線を画した展開に発展していく。昨年、マティ・ディオップの短編作品がMUBIに登場したときには、まだ彼女の初長編作品がカンヌ映画祭のコンペに選出され、熱狂的に受け入れられるとは思いもしなかった。彼女の経歴や該当短編作品については別の記事をぜひどうぞ。