43.判例時報

判例時報2019年8月11日号 No.2410
民法理論のいま――実務への架橋という課題(2)
使用貸借の受渡請求が権利濫用とされる場合に立退料を支払えば権利濫用ではなくなるか 近江幸治

僕の部屋は僕にとっては気に入っているものの土地活用としては勿体ない。不動産デベロッパーの買い手がつく土地は転売が見込めるから、ともすると地上げ屋のように無理に立退きを迫ることも考えられる。

もし、都市計画の道路拡張で僕の部屋が壊されるのなら素直に立ち退く。財産としての借家権が正当に補償されるからだ。不動産デベロッパーの転売目的の立退きでも借家権が正当に補償されれば立ち退く。

正当な補償は判例で予想される金額を念頭に置いている。それ以下なら立ち退かないし、それ以上なら立ち退く。この場合、立退き自体はする意思があるといえるだろう。

一方、思い出の土地からどうしても立ち退きたくないという場合はどうだろう。財産が十分にあり裁判基準の立退料に興味がない場合もあるだろう。その場合も立退料を支払えば立ち退かせることが出来るのか。

難しい問題だ。判例時報の記事では立退料をめぐる判決について、現状は安易に運用されているが権利濫用を斟酌[しんしゃく]された新たな法律関係を期待しなければならないと結んでいる。

要するに現状では裁判で判決がでれば立退きせざるを得ないということだ。