5.大家さんの植木

下町の風景でよく目にする塀の前にずらっと植木鉢が置いてある風景。

僕の大家さんも植木が好きだ。塀の前にはトクサが植えてあり和風で割烹料理屋の店先を目指したような面影がある。僕が越してきた冬には玄関前に梅の盆栽が咲いていた。他の住人は特に気にしていないようだったが、毎日密かに楽しんでいた。

春になると僕は花粉症で植木を愛でる心境ではなかった。夏には庭木が茂る。大家さんはセッセと刈り込んでいた。朝晩2回の水やりを欠かさない大家さん。お向かいさんも植栽の手入れに隙はない。まるで競っているようにも見える。

僕も小さいトラノオをジャムの瓶に入れて窓の縁に置き育てている。この秋、過去最大レベルの台風が東京を直撃するかもしれないとニュースになった。だからだろう大家さんは庭木の枝をどんどん切り落とし紐で縛っていった。もちろん、植木鉢も部屋に入れたのだろう門を開けるとサッパリとしていた。

近所では窓に養生テープを貼っているところもあった。驚くことに今でも貼りっぱなしである。大家さんはそこまではしない。半世紀を超える築年数だからか、ダメなときはだめだと諦めているのかもしれない。

植木鉢が元に戻ることはなく庭木の紐も結ばれたままだった。