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20230108 / 白線から飛び出したときの胸の苦しさを,もう何年も感じていない気がする.

それは,夜も更けた冬の,冷たく重い寒空の下で.

月明かりに見つめられながら僕は,誰が決めたわけでもないのに,落ちたら負けだと思いながら,ぼんやりと照らされた白線の上を辿った.

総じて,道は自分が行きたい場所には続いていないから,いっそ負けでもいいやって,線の上から飛び出したときの胸の苦しさを,もう何年も感じていない気がする.

帰るべき家は,途切れた白線の向こう側.いつかのように飛び出そうとしたその時,どこからともなく現れた幽霊が,僕の手をそっと引いた.

どこか僕の姿に似たその幽霊は,この手を引いて向かうべき場所とは真逆の方向へ.

白線を辿って,街路樹の向こう側.僕らの間を窓明かりが分かつ.カーブミラーの向こう側の住人が,僕の方を見向きもしないで,住宅街を突っ切っていくのに、僕は黙って従うしかなかった.

街灯の光が途絶え,白線の色はやがて霞み,思うがままに飛び出すべきレールすら見失って,窮屈が恋しくなってしまった頃.何もかもを失ってしまったような気がして,暗闇に浮かぶ凡庸な輪郭を責めたら,とうとう,僕の陰は泣き出した.

途端に黒く寂れた記憶たちが出しゃばって,僕を悪者だと罵り出すから,たちまち,僕も泣き出した.

僕らの横を通り過ぎる私鉄が,嘲笑うように追い越していって,架線の向こう側を見れば,月の光芒に当てられた田園が僕らを誘っている.

僕は彼の手をとると,暖色が包みこむ踏切を越えて,田園に挟まれたアスファルトを一目散に駆けた.

点々と輝く種が生きているみたいに揺れた.

2021.