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[音楽感想]Unlimited Love/Red Hot Chili Peppers

概要

ジョン・フルシャンテが復帰して製作された、Red Hot Chili Peppers(以下RHCP)通算12作目のアルバム。プロデューサーは、お馴染みリック・ルービンがやっております。

印象

音響的には前作(Getaway・デンジャー・マウスプロデュース)と比べるとシンプルかつバンドの生音をそのまま詰め込んだという印象ですね。前作はドラムの音がポコポコ言ってたり、ベースの音もしょぼかった印象だったので、力強い音が戻ってきてくれたのはうれしいところ。それからジョン・フルシャンテのギター・サウンドがまんまStadium Arcadium(2006年のアルバム・以下SA)を思い起こさせる曲が多く「続SA」といった趣。懐かしくなります。

曲作りの特色

そのSAあたりから、RHCPの曲作りには一定の方向性のようなものが形成されてきたと思っていて、今作に至るまで(ジョシュ・クリングホッファーがメンバーであった時期も含めて)一貫して変わっていないと思います。実際の曲作りはメンバーがジャムるうちに自然にできてくると聞いていますが、どうも近年の出来上がった曲を聴くと、曲そのものの完成度が非常に高い。リズム、リフ、メロディーを積み上げていって出来上がる足し算の作り方というより、最初から完成形があり、それに合わせて適切に各楽器やヴォーカルを置きにいっている、引き算の作り方という印象を受けます。

激変する印象

SAを最初に聴いたときには「なんだこれ、どこかで聴いたことのあるフレーズやメロディーを適当にツギハギしているだけなんじゃないの?」と思ったのを覚えています。ファンは分かると思いますが、「この曲のこのリズムはあの曲と同じ、この曲のこのメロディーはあの曲のこの部分」というのがすぐ思い浮かんでくるような、既存要素の組み合わせのみ、何の新しさも感じられないというのが第一印象でした。曲調も全体的に地味で、どれも似たような曲ばかり。

しかし、2回め3回目と聴いていくと印象ががらりと変わってしまうんですね。「いや確かに、この部分にはまさにそのフレーズしかない!よくぞ配置したり!」という唸りの連続で、当初適当に散りばめられているように感じられた「お馴染み要素」が、「唯一の正解」という感じで絶妙に配置されていると分かってくるんです。そして各楽曲の多彩さ!最初どれも同じと感じられた各楽曲が、こんなにも多彩でバリエーションに富んでいたとは!最初はいったい何を聴いていたんだ?…そんな体験です。この体験はSA以降ずっと一貫しています。

仏像アプローチ

よい仏師は彫り始める前から木の中に完成した仏像の形を見ると言いますが、同じように曲作りを始める時点で完成形が見えていて、あるべきところにあるべき要素がきっちり置かれて、曲の完成度を高めている…。聴けば聴くほどよさが分かってくるのは、そういう「仏像アプローチ」的な曲作りをRHCPが確立したからではないかと思っています。もちろん、実際の曲作りの進み方はセッションを通してだとは思うのですが、結果的にSA以降は仏像アプローチを取っているとしか説明できないような特殊性があるように感じます。「初回の印象パッとしない→2,3回目でガラリと変わる」という体験は変わらないんですね。おれだけですか?

ロックバンドとしての特異な進化

そしてそれは今作に至るまでずっと続いていて、このバンドは何ら新しい試みをするでもなく、センスを磨くでもなく(いや磨いているでしょうけど)、テクニックを向上させるでもなく(いやメチャクチャ練習はしてるでしょうけど)、過去に培ってきた様々なミュージカル・パーツを絶妙に組み合わせながら、作り上げる楽曲の質を新アルバムごとに少しずつ向上させていっている訳で、これはロックバンドとしてはちょっと考えられないような進化の仕方ではないかと思っています。アルバムごとに音楽性を変えたり、あるいは逆に同じスタイルでずーっと同じような曲を作り続けるバンドは多々ありますが、質的に向上させるのは簡単な仕事ではないはずです。

約束されたクォリティ

なんとなく感じていたこの仏像仮説は、前作Getaway(2016年)の時に確信に変わったと感じたので、前作の時点で「次のアルバムも確実にいい作品になるだろう」と思っていました。実際いい作品ができた。次のアルバムも(この先様々なドラマティックな出来事が起き、すったもんだあったとしても)間違いなくいい作品になるだろうと確信しています。もう1作品ごとのバラツキというものはないんだろうと思います。完全な駄作やビックリするような文句なしの傑作というのは出ないでしょう。

ジョン復帰の意味は?

今作にしてもジョシュ・クリングホッファーと作ってもほぼ同じクォリティ、あるいはそれ以上のものが出来た可能性は高いし、そうなるとなぜわざわざジョン・フルシャンテを呼び戻したのか?という疑問が生じます。しかしそれはもうバンドメンバーの個人的な好みやバイブス?やなんかの色々があるのでしょうからよく分かりません。個人的に言えばジョンはよくも悪くもスタイルが確立されすぎてしまっているので、面白みがない。それに比して前作におけるジョシュのギター、コーラスの多彩さ、独特の味わいは評価すべきものがあると思います。個人的にはジョシュの方が好きですね。

まあメンバー(フリーとアンソニー)が「ジョンとやりたい」と思ってるのなら仕方ないと思いますが、ジョンが復帰したことで劇的に作品のクォリティが向上したかというとそんなことはなく。自らが三顧の礼をもって迎えた才能のあるギタリスト…10年間にわたって献身的にバンドに尽くしてきた、何の非もないメンバーを三下り半で放り出すなどという筋の通らない破廉恥な真似をしてまで拘るほどのものだったかというと、甚だ疑問だと言わざるを得ません。


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