雨音 ―ショートショート―
お題「外は晴れ、心は雨音」
(お題提供者 ヤマケン さま)
………………
枯れた。
地はひび割れ、水は乾き、木は枯れた。
「お父さん、のど渇い、たよ、頭いたい、よ……」
日照りが続き、牛が死に、次いで人も死に始めた。私の村ではもう食料が尽きかけている。冷暗所に保存していた肉は底をつき、野菜類は乾きだした。そして水は、昨晩、消えた。
「我慢だよ、我慢。もう少しできっと、雨が降るはずだから……。おばば様も雨乞いをしてくれただろう?」
「でも、そんなの嘘だよ……、どこにも雲なんて、ない、じゃん……」
「信じるんだ。きっと雨がふる、って」
しかし私自身、そんな希望に縋るほど愚かではなかった。
家の外では未だ日が照っている。外で死んだある男の死骸をカラスどもがつついていた。
あと三日もすればこの村の誰もがカラスの餌になる。カラスどもは私たちの肉を食い、水ある場所まで飛んでいくことだろう。できることなら、私もカラスになりたかった。
「お、父さん、見て。カラスが……」
「見ちゃダメだ」
息子の目をふさいだ。息子の肌はざらざらとし、枯れていた。じわじわと忍び寄る死。さぞかし喉が渇き、胃が狂い、頭痛にむしばまれていることだろう。
「わかった、わかったよぅ……」
息子は私の手をどけると、窓の外から目を逸らし、私を見た。彼の目にはもはや生気はなく、苦しみから逃れるための涙さえ出ない。
虚ろ。
その一語がもっともしっくりくるという事実に、私は顔を覆いたくなってしまった。
息子はがくがくと震える足で玄関へと歩き「外に出たいよ」と言った。
それは、死ぬ前の願いのような気がして――しかし私はそれを承諾した。
太陽が我々を圧迫するように光っていた。それだけで立ちくらみがする。息子はそんな太陽を見ると、笑ったのだ。太陽の向こうに何かを見ているようだった。
「うん、よかったよ」
と、息子は言った。
何が良いのか。私にはわからない。
でも、彼がまもなく死ぬであろうことだけは確かだった。
「うん」
と私も言った。
彼が死んだら、私も後を追おう。どうせ私も長くない。水に餓え、明日には死骸となってカラスに食われるのだから。干涸らびたくちびるで笑みを作ると、息子もそれに答えた。
それが、最後になる息子の笑顔だった。
息子はふらふらと揺らめくと、立てたマッチ棒が倒れるように、弱々しく地に倒れた。それから、動かなくなった。
笑顔のままの息子の傍らに膝をつく。
私は彼を抱きしめた。
そしてそのとき、息子の顔に雨が落ちた。
………………
※ショートショートのお題、待ってます!10文字程度のお題をください。
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