パンダのプンダ、旅に出る その1
第1話「パンダのプンダ、シロクマになる」(全10話)
そのシロクマはもともとパンダでした。
しかしここ数日の雨が過ぎると、黒い模様がきれいに消えてしまったのです。パンダだったそのシロクマは、これといってあわてることもせず、落ち着いてモシャモシャと笹を食べています。
彼の名前はプンダと言います。プンダというのは人間で言うところの「次郎」みたいなものです。彼は四人兄弟の次男で、上から順に、ピンダ、プンダ、ペンダ、ポンダと言います。
ポンダだけが女の子で、あとはみんな男の子でした。こんなプンダたちですが、おかしなことにシロクマになってしまったのはプンダだけでした。
プンダは長男のピンダに言います。
「兄さん、ボクの黒はどこに行ったんだろ?」
言いながらも、プンダは笹をモシャモシャしています。
ピンダは「う~ん」と頭を悩ませます。彼の人生──いいえ、パンダ生において、黒模様が消えたパンダなんて聞いたことがありません。
「きっと雨で流されたんだよ!」
と、三男のペンダは言いました。プンダもなんだかそんな気がしていました。「やっぱりぃ?」と言いながら、プンダはまだ笹を食べています。
「でも──」と言ったのは妹のポンダです。「私たちには何も変化がないわ」
それもそうだ、とプンダは考えます。
四人はそろって「う~ん」とうなります。そして何度目かの「う~ん」で三男のペンダはハッとしました。
「ぬすまれたんだ!」
みんなは目をまん丸にして「えっ?」と言いました。
「きっとどこかのだれかがプンダお兄ちゃんの黒い模様をぬすんでいったんだよ!」
しかし冷静なポンダは、
「でもペンダお兄ちゃん、何のために盗むっていうのよ」
と言いました。
これにはペンダも何も返せません。プンダはプンダで「あ~そっかぁ~、びっくりしたなぁ」と言って笹を食べます。
ただ、長男のピンダだけは真剣な眼差しをしていました。
「いや、待てよ。こうして黒い模様をうばわれてプンダは困っているんだろ?」
ピンダはプンダを見ます。プンダは「困ってるかどうかと言われたら、困ってる気もするなぁ」と答えました。ピンダはニヤリとします。
「困ってるということは、大切だから困るんだ。だから、これを盗んだひとには何か得があるに違いない!」
やはりピンダは長男です。「ボクたちよりも年上だから、ずいぶんと賢いんだなぁ」とプンダは思いました。
ポンダは何か言いたそうにしていましたが、けっきょく彼女は押し黙ったままです。ペンダは「ピンダお兄ちゃん、あったまいい~!」と拍手しています。ピンダは真っ黒で小さな鼻を高くして「えっへん」と胸を張っています。そしてプンダは笹をモシャモシャ食べていました。
「ではプンダ、お前にはやるべきことがある」
ピンダが言いました。
「え?」とプンダは言います。
「お前は自分の黒模様を取り返さなければいけない」
「うん」
「だから──」
ピンダはそこで区切ると、ビシッとプンダに指さしました。
「犯人をつかまえる旅に出るんだ!」
「うぇ……?」
「世界のいろいろなところへ飛び出すんだ!」
「えっ?」
「森の外へ行くんだ!」
「ええぇ!?」
プンダは、笹をぽとりと落としました。
(第1話 おわり)
|目次|次話
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?