キラキラ少女 ―ショートショート―

 キラキラ光るその水を口に含んでみたら私の体もキラキラキラキラ光って私のまわりは照らされて私はキラキラしながら家に帰るとお母さんは驚いたようだけど「これなら電気を点けなくてもいいわねエコね」と納得したようだったから私は少し照れてしまったら私のキラキラがさらにキラキラして家中がキラキラしちゃってお母さんは「まぶしいわね」と笑っていたから私はさらに照れちゃってキラキラキラキラキラキラキラキラ。

 次の日からお母さんはサングラスを掛けるようになった。

 そうしなければお母さんの目が悪くなってしまってお母さんは仕事をできなくなってしまう。だから仕方ないんだけど、それがとっても申し訳なく思ったから私のキラキラが少しだけ暗くなる。お母さんは「気にしなくていいわ大丈夫だから」と言った。私はちょっぴり安心していつものキラキラに戻った。

 私がキラキラすることを学校のお友達なんかは「お星様みたい」ってもてはやすけど私はなんだか恥ずかしいからもっとキラキラしちゃってそんな私を見て横山くんが「やめろよ恥ずかしがってんじゃん」と言ってて「あー私の気持ちってみんなに見えちゃうんだ」と思ったら泣きたくなって教室一面が真っ白になった。

 私の体がキラキラ光るようになってから一週間が過ぎた。気がつけば私のまわりには誰もいなくなっていた。だって、私のキラキラを見れば私がどんなことを考えているのかわかってしまうから。

 初めは新垣くんだった。私はあまり彼のことが好きじゃない。彼が近くにいると私のキラキラはちょっぴり明るさを失っちゃうんだけど、その理由が彼だってばれたら新垣くんは怒って私を蹴った。蹴られる度にビカッ!と光って一瞬で暗くなってしまう。ビカッ!しゅん……。ビカッ!しゅん……。何度目かのビカッ!で先生がやってきて新垣くんを叱った。

「なんでこんなことをしたの」「だって、俺なんもしてないのにこいつが俺のこと嫌いだって」「言ったの?」「言ったわけじゃねーけど、ほら、こいつの光でわかるじゃん」「でも女の子を蹴るのはダメだよ」「じゃあ俺は?なんもしてないのに嫌いって言われた俺は?ぜんぶ俺が悪いの?センセ、言葉の暴力だって痛いんだよ」

 新垣くんはそう言って泣いた。私は蹴られた足をさすった。

 次に心音(ここね)ちゃんだった。心音ちゃんはクラスの人気者でいつも大人なファッション誌を学校に持ってきて洋服のお話とかをよくしている。女の子はルックスと力は比例するからきっとこのクラスの女の子で一番のリーダーは心音ちゃんなんだと思う。心音ちゃんとはほとんどお話ししたことがなかったけど、私がキラキラ光るようになってから彼女は私に話しかけてくれるようになった。キラキラ光るのも悪くないじゃん、と思ったけど、心音ちゃんは私を利用するために近づいたのだった。

 心音ちゃんは言った。「ねえ、私の悪口、だれか言ってた?」放課後、珍しく残っている心音ちゃんが誰にも聞こえない声で私だけに言った。私はどきっとした。それに呼応して一瞬だけ強く光った。私は「ううん、だれも言ってないよ」と言った。私のキラキラは心臓の音みたいに光ったり弱まったりを繰り返す。放課後の薄暗くなった教室は、私のせいで明るくなったり暗くなったりを繰り返した。「ふうん」と心音ちゃんは言った。

 心音ちゃんは、私を悪口発見器として使ったのだ。心音ちゃんがいないとき、誰かが心音ちゃんの悪口を言ってないか、それを調べるために私に聞く。私の心はキラキラになって外に漏れちゃうからそれを見れば一瞬で私が嘘をついてるかどうかなんてばれちゃって、心音ちゃんはそれを利用した。

「だれ? よしりん? 美咲? 彩香? 芽依?」びかっと輝く。「……あ、芽依か」「ち、違うよ」びかっ。「で、他にも誰か言ってた?」「だ、だれも言ってないよ」びかっ。「あ、そう。……もしかして弥生?」びかっ。「ふぅん、あの子も言ってたんだぁ……。どんな内容だった? ――ってのは聞いたってわからないわよね。じゃあいいわ。明日も聞くからよろしくね」

 次の日、心音ちゃんを見たらビカカカッ!って光り出した。きっと私の体が心音ちゃんのことが怖い怖い怖い怖いって泣き叫んでるんだ、私の手だって小さく震えて息だって切なくなって、どうしてこんな事になっちゃったんだろうって小さく呟いた。教室もビカカカッ!に照らされて誰も彼もが私の方を向いてはまぶしさに顔を背けた。でも心音ちゃんだけは顔を背けることはなくて、静かに冷たい目で私のことをじぃぃって睨んでたんだ。背中がひやりと冷えるのと同時に、私のキラキラはおとなしくなった。

 こうして心音ちゃんがやってたことがばれちゃって、もう心音ちゃんは私を発見器にするようなことはなくなって、加えて私に話しかけることすらもしなくなった。それが決定打となってか、誰も彼も私に話しかけることがなくなっちゃったんだ。毒でも持った蜂を避けるかのように、目を合わせてくれることもない。

 どうしてこうなったんだろう。私は落ち込む。すると教室はほんの少し暗くなる。暗くなった私を見て誰かが笑う。私はもっと暗くなる。そして誰かが笑う。また暗くなる。笑う。暗くなる。笑う。暗くなる。

 そして私は学校を休んだ。

 もう学校なんて大嫌いだった。だって、みんな私のことを見て笑うんだ。私が暗くなるともっと笑うんだ。私が何をしても笑うんだ。私は私のキラキラが嫌いだ。私が泣きそうになっていると、サングラスをかけたお母さんが「気にしなくて良いわよ、あなたは世界で一番輝いているんだもの」と言った。私は嬉しいような悲しいようなわけのわからない気持ちになってぐるぐるして私のキラキラは点滅してお母さんはまぶしそうな顔をして、私は家を出た。

 家を出た私は夜の怖い道を駆けた。暗闇の中、私だけが輝いてた。私の光は暗闇のどこまで届くのだろう。暗闇の向こうは見えない。私のキラキラは、暗闇を照らさない。

 やがて森に着いた。キラキラした水があった森。森はどこもかしこも暗くってキラキラ水は見当たらなくて私はどうしようどうしようって思うけどでも諦めちゃダメだから一生懸命探していると、キラキラじゃないんだけどやけに真っ暗な水があった。真っ黒じゃなくて真っ暗。ホントに水があるのかなって疑問だけど、でも私のキラキラに照らされてどうやら水かもしれない。もしかすると私のキラキラがなくなるかも!って思ったから私は真っ暗な水を飲んでみた。

 私のキラキラがどんどん消える。どんどん消える。暗い森の中で何も照らすものがなくなって、私はついにキラキラじゃなくなったんだ!ってジャンプした。そして私はニコニコ笑顔で家に帰って「お母さん!」って言うと、お母さんは「おかしいわねぇ」だなんて言ってキョロキョロしだした。もう一回私が「お母さん!」と言ったらお母さんは途端に怯えたような顔をして「何?何がいるの?」とガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ震えだした。私はもちろんお母さんの目の前にいるんだけど、お母さんはちっとも気づいてくれなくて「ごめんなさいごめんなさい」って震えてる。おかしいな、って思って私はお母さんの肩を叩こうとすると、あれ? 私の手がない。足もない。慌てて鏡を見てみると、私はいなかった。あの真っ暗な水のように何もない。私はいない。どこにもいない。すると私もガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタって震えだして、お母さんと一緒に震えて、どうしようもなくなって、怖くて、私は急いでまたあの森に駆けだした。

 そしてそこにはちゃんとキラキラ光る水があったから私はそれを飲んだ。

 私の体はキラキラ光った。


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