ママの知らない夏 ―ショートショート―

お題「おいしい麺類とおいしい君」
(お題提供者 大川七瀬 さま)


………………


 れいぞうこをあけると、やっぱりそいつがいた。

 冷やし中華。

 ママが作った冷やし中華。

 きょうも冷やし中華。

 きのうもおとといもそのまえも、冷やし中華冷やし中華冷やし中華、なんちゅーかもうイヤだ。

「冷やし中華」なのか「華を冷やし中」なのかもうわけわかんないくらい冷やし中華が冷やし中華でゲシュタルトホーカイ!

 ママはアタシのことがスキじゃない。

 ほかの家のママはお昼にオムライスとかパラパラチャーハンとか作ってくれる。でもうちのママは冷やし中華だ。アタシはそれほど冷やし中華がスキじゃないってことをきっとママもわかってる。たぶんアタシを冷やし中華中毒にしようとかんがえているのだ。

 おもえばこの夏休み、お昼は冷やし中華しかたべてない!気がする!あ、一週間まえにしょうゆとんこつラーメンたべた!あれはうまい!ともかく!

 アタシは、けっしんした。

「よし、“すとらいき”だ!」

 “すとらいき”――それはたしか文句をいう!「きゅーりょー上げろー!」だとか「ぶらっくきぎょーはんたーい!」だとかいう。ニュースでやってた。

 こういうときは「おもいたったきせいじじつ」というらしい。だからアタシはしんぶんしでメガホンをつくって冷やし中華はれいぞうこにしまって、家をでた。

 アタシも“すとらいき”するのだ。

 向かう先はママのしごと場!○×マーケット!

 たいようさんがぎらぎらしてて、ミンミンゼミもミンミンしてた。みんなみんな夏気分だ!

 ○×マーケットにつくころには汗がたらたらながれてて、○×マーケットの中のクーラーがとってもさむくて、アタシも汗がながれててクーラーがあったから、クーラーがとってもさむかったです。

「あんら、あずさちゃんでねが。どしたの、こんなとごまで」

 あ、お向かいのおばちゃんだ。カサイさん。カサイおばちゃん。おばちゃんはきょうもシワシワ。

「アタシね、あのね、ママにね、あのね、すとらいきするの!」

 するとおばちゃんはキョトンとしたけど「んぁ。お母さんだば今レジ打ってらはんで、会えねがもしれねぇど?」と教えてくれた。

「いいの!すとらいきなの!」

 そしたらやっぱりおばちゃんはまたキョトンとした。

「ん。そいだばおばちゃん帰るはんで、あずさちゃんもがんばってな。へばな。がんばってな」

 と、おばちゃんは店からでてった。アタシも「へばな!」と手をふった。

 ○×マーケットにひとりで来るのははじめてだったけど、すぐにママを見つけた。ママがいた!

 アタシはママに手をふろうかちょっとなやむ。なんだかはずかしいし、もしかしたらおこられるかもしれないから。ママはおこるとコワイ。

 う~……。アタシはけっきょく手をふらなかった。ママからすこしはなれたところでジーってママのことを見てた。

 ママはこんなにさむいクーラーなのに汗かいてた。

 パソコンみたいなのをポチポチおして、キュウリとかタマゴとかトマトとかオレンジジュースとかをあっちのカゴからこっちのカゴへ入れて、お金もらって、ペコペコおじぎして、それからまたポチポチして……。

 ずーっとそれをやってて、ママはアタシには気づかなかった。よかったようなよくないような。でも、ママはたいへんだったからゆるす。だってでっかいオレンジジュースを片手でもってたし!アタシでも両手つかわなきゃなのに!

 アタシはなんだか、おむねがチクチクしてたから、○×マーケットを出て、走って走って、たいようさんがぎらぎらしてて、ミンミンゼミはミンミンで、しんぶんしメガホンはすてちゃって、カサイおばちゃんを追いこして、家のカギをあけて、サンダルぬいで、れいぞうこをあけて、冷やし中華をだした。

 そして「いただきます!」をした。

「うん、冷やし中華もいいもんだ!」


………………


(途中の方言は津軽弁です。わからないようでしたら標準語にするか、優しい方言に直します)


※ショートショートのお題、待ってます!10文字程度のお題をください。

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