『焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕』 今野敏

日常生活の裏に起きている犯罪。生と死の狭間で闘うもの達の物語。読み手としては、小説だからということを頭の片隅に持ちつつも、その世界に入り込み、刑事や犯人に感情移入をすることで、束の間の現実逃避を楽しみ、また、リアルに戻る。今のコロナ禍にあって気付くのは日常生活が日常的であることの重要さ。小説の世界の方がある意味、日常的に感じてしまう。そうなると、なかなか小説の世界に入り込めない。という、今までにない感情になりながらも読んだのがこの作品。今野氏の人気シリーズの一つ。今回は、ある事件をきっかけとして、検察と警察との戦い。若干、検察サイドの動機に粗さを感じる。ただ、現場であるベテラン刑事の樋口が、独特な人間味で、同じ現場やキャリアに加えて、検察によって犯人に仕立てられそうになった政治家までも魅了し、事件を解決に導くという物語。同じ今野氏の「隠蔽捜査シリーズ」にも若干似ている読後感というか、正直者が、悪事を正すという部分に、確かに、爽快感というか、水戸黄門的なお約束感もありつつ、気持ちよくなる感じはある。少し、ベタというか、いかにも検察や、一見、嫌な奴かと思ったが骨のあるいい人のキャリアや、いかにもキャリアで最後まで嫌な奴という登場人物像だったり、事件の犯人を見つけ出すまでの過程も本筋ではないとはいえ、少し強引だったりもある。で、冒頭になるが、コロナ禍の今まで経験したことのない日々においては、このお約束的な爽快感を、若干感じにくいなと。うまく説明しにくいが、日常における刺激としてなのか、癒しとしての小説であり、日常を感じるためのお約束的展開が機能しない。おそらく、コロナ禍が終わった後の日常は、前と同じでも、少し、景色が違うのではと思う。そうなった時に、警察小説の描き方というか、犯罪者の心理や、警察官、刑事、公安の心理も変わってくるのではないだろうか。そうした時に、今まで通りのお約束で落ち着かせるのか、新しい境地に向かうのか、描写でとどめるのではなく、その奥底にある心理まで踏み込む作品に出会えるのを非常に楽しみにしている。

お薦め度(星5段階)  

■シリーズの安定度 ★★★

■ベテラン刑事度  ★★★★

■捜査本部での弁当度 ★★★★


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