聴神経腫瘍になって⑤ 〇〇%でこうなりますよ、の重み。

今回は、患者側になって初めてわかった気持ちを残しておこうと思います。

前回の、耳鼻科の先生からのアドバイスで、「聴力を失う可能性が高い」と言われたことを書きました。
実際、脳外科の先生からも、手術に伴い、聞こえる能力が下がるかもしれない事は、説明を受けていました。その際言われたのは(あくまで、僕の場合、ということでご理解ください)、
「聴力を温存できる可能性は、50から70%です。」
と言うことでした。ここで僕の心を揺らしたのは、2点ありました。
1つはもちろん、50から70%と言う確率です。2分の1から3分の1の確率で、この手術をした後に耳が聞こえなくなるかもしれない。と言うのは、結構重い事実でした。
正直に言うと、この時、この事実が怖くて、正確に先生に話を聞き返すことができませんでした。それは、「聴力を温存できる」と言う言葉の意味です。完全に耳が聞こえなくなってしまうのか、それとも今より落ちると言う意味なのか、それがわかりませんでした。
でも、今より落ちると言う意味だと信じたい。完全に耳が聞こえなくなる可能性です、と言われたくない。と言う気持ちが勝ってしまい、このときは、聴力を温存できるとはどういうことでしょうかと、聞くことができませんでした。

この時僕は、今まで自分の話してきた、患者さんへの話を、思い出しました。
大学病院に勤めていた時、私は循環器内科医でしたので、救急車で運ばれてくる心筋梗塞の患者さんや、様々な急病の患者さんを診療していました。その時、
「心筋梗塞は、適切に治療しなければ、40%程度が命を落としてしまう病気です。」
とお話ししていました。
もちろんその後に、この後の治療の内容をお話しし、それにより死亡リスクを大きく下げられること、全力を尽くして治療することをお話ししていましたが、特に若い患者さんの場合、40%が死ぬと言われ、ご家族が涙する時もありました。

私は医学は科学の実践だと信じています。医療は、その科学を人の生活に当てはめるプロセスです。そのため、治療によるメリットやデメリット、その他いろいろなことを話するときに、なるべく、予想される可能性は、%などでお話しすることにしていました。それを多いと思うか少ないと思うかは患者さん次第ですが、我々、科学を実践する身としては、リスクを割合でお伝えするのが、最も正確な伝え方だと信じていました。

ただ、実際に自分がそのリスクを伝えられた時、私の場合は死ぬ死なないではなく、耳が聞こえなくなるかと言う問題ではありましたが、大きなショックを受けたのです。
この話だけでも大きなショックを受けたのだから、40%で死に至ると言われた時の、患者さんやご家族の気持ちはいかばかりだったろうと、今になって思い起こします。
当時、僕は「リスクは確かに高い。でも、待っていられない。治療によるメリットは、疑うべくもなく高い。だから早く治療させてくれ!」と「患者さんたちのために」そう思っていました。いや、そう信じていたという表現のほうが正しいかもしれない。

でも、僕の話をきいた患者さんたちは、その時、極限状態でどう思っていたのだろう?と思うと、伝えなければならない事実だけれど、申し訳なかったなあ。と思っています。
今後も、正確にリスクをお伝えするために、%など具体的な数字で、お話させていただくことも多いと思います。が、これまで以上に、患者さんに寄り添って話をしなければならないなぁ、と、強く思った体験でした。

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