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原郷の森

『原郷の森』横尾忠則 2022年3月刊 文藝春秋

存命する画家の中で最も好きなのが、本書の著者である横尾忠則氏です。

好きな作家の本の装丁やミュージシャンのアルバムジャケットに氏の絵が使用されていたり、風呂なしのアパートに住んでいた際、毎日通った銭湯に氏のポスターが飾られており、毎度、眺めていたら、いつのまにか、好きになっておりました。

横尾氏の作品は、絵だけでなく、本も結構な数が出版されており、自分の中ではアタリ、ハズレが結構、大きかったのですが、本書はアタリでした。

本書、「原郷の森」と名付けられた森の中で、Yと呼ばれ、著者の横尾と思われる画家が、ピカソやダリ、キリコなどの美術史上に燦然と名を残す芸術家たちと出会い、その美術談義が500数ページにわたって繰り広げられております。

芸術家は画家だけでなく、著者と親交のあった作家、三島由紀夫、柴田錬三郎をはじめ、黒澤明、手塚治虫、はてはブッダや毛沢東、ギルガメッシュと歴史上、神話の世界の人物から宇宙人までも登場するにいたり、まったくもって、話の内容は荒唐無稽なのですが、これが、非常にリアリティをもって、語られてゆくのです。

読んでいて、そして、読み終えた今も、虚構の世界であると断言できない部分が多々、ありました。

なかでも、登場人物たちが著者に対して、残してゆく言葉の数々がイカしており、痺れます。

本書の中の三島由紀夫は著者との会話のなかで「少年の日の記憶を老衰させてはならない」と告げてみたり、運慶は「凄えだろうと驚かすことが仏像の存在だ」と語ります。

他にも「てめえはてめえになることだ。てめえの発見だ。つまりそれが修行なんだ」とか、「これがいいと思えばひとりでやればいい」「目標によって未来が変わる」「自然に溶け込むのが遊びだ」などなど、自己の琴線をかき鳴らしまくる言葉の数々が本書には散りばめられておりおました。

そこには、著者が考えた言葉ではなく、死者が本当に語っていたかのようなエネルギーを感じ取りました。

巻末では、この死者たちとの対話は今後も続いていくであろと綴られており、この「原郷の森」に俺も行きてえなと思った次第です。

以下、原郷の森の登場人物ですが、好きな人物がいれば、どうぞご一読ください。

小説という体(てい)を取っていますが、アフォリズム、芸術論として読むことも一興です。

また、氏の絵画作品をご覧になったことのない方は一度、ご覧になってみてもいかがでしょうか!

【登場人物】
Y(横尾忠則)、三島由紀夫、マルセル・ドュシャン、谷崎潤一郎、永井荷風、日野原重明、ピカソ、澁澤龍彦、熊谷守一、宇宙霊人、キリコ、植木等、シュバイツァー、ピカビア、瀧口修造、シャガール、ダ・ビンチ、ミケランジェロ、ルソー、小津安二郎、ルイ13世、岸田劉生、南洋一郎、今東光、ウォーホール、ガウディ、稲垣足穂、引田天功、ガリレオ、コロンブス、アラビアのロレンス、ルイ14世、ネロ、伊能忠敬、ファーブル、ボッシュ、ホイジンガ、ダリ、レニ・リーフェンシュタール、二宮尊徳、遠藤周作、マン・レイ、カンディンスキー、古川ロッパ、ルドルフ・バレンチノ、夏目漱石、ロイド、小松崎茂、エジソン、手塚治虫、ジュール・ヴェルヌ、月岡芳年、三遊亭円朝、花岡青洲、土方巽、フェリーニ、オーソン・ウエルズ、ルネ・クレマン、ロッセリーニ、チャップリン、世阿弥、ブレイク、ダンテ、土屋嘉男、黒澤明、運慶、モーパッサン、池田万寿夫、柳宗悦、河合隼雄、ブルトン、泉鏡花、尾形光琳、江戸川乱歩、葛飾北斎、安藤広重、ジャン・マレー、サティ、コクトー、デュマ、バルザック、親鸞、ヘンリー・ミラー、モネ、堂本印象、青木繁、伊藤晴雨、坂本繁二郎、ドラクロア、竹久夢二、ランボー、セザンヌ、高見順、斎藤茂吉、森鴎外、アンドレ・モロア、市川雷蔵、ジョン・フォード、ロブ・グリエ、パゾリーニ、ユイスマンス、佐藤春夫、マグリット、アガサ・クリスティ、リー・ミラー、川端康成、岩佐又兵衛、柴田錬三郎、小林秀雄、上田秋成、荘子、孔子、小田信長、横光利一、小松左京、ノストラダムス、東野芳明、ギルガメッシュ、ダリ、ガラ、昭和天皇、デジデリオ、ヒトラー、アインシュタイン、アデプト、ニーチェ、嵐寛寿郎、バタイユ、キャサリン、マネ、ヘーゲル、プラトン、藤田嗣治、ブッダ、ローマ法王、キリスト、種村季弘、檀一雄、芥川龍之介、シェイクスピア、小鬼、北原白秋、エドガー・アラン・ポー、ムッソリーニ、エドワード・ホッパー、ユング、折口信夫、長谷川利行、大浦みずき、富岡鉄斎、ロトチェンコ、武者小路実篤、松本清張、鴨長明、亀倉雄策、寺山修司、ディズニー、シャヴァンヌ、マリー・ローランサン、ラマ僧、タマ、東条英機、山の神、アドラー、石川啄木、サルトル、黒住忠宗、団鬼六、司馬遼太郎、思兼命、志賀直哉、太宰治、ヘミングウェイ、エリア・カザン、ジェームス・ディーン、エリザベス・テイラー、セシル・B・デミル、フェルメール、ムンク、鶴屋南北、お岩、八百屋お七、滝沢馬琴、ベン・シャーン、近松門左衛門、イサム・ノグチ、石原裕次郎、長谷川等伯、モディリアーニ、キース・へリング、アポリネール、高畑勲、大岡昇平、エルンスト、エッシャー、水谷準、高田浩吉、ホーキング、ゴヤ、レンブラント、堀田善衛、ナポレオン、梅原龍三郎、千利休、アラン・ロブ=グリエ、清少納言、梅原猛、織田作之助、グーテンベルク、スサノオノ命、空海、毛沢東、淀川長治、茂山千作、ルドルフ・シュタイナー、本居宣長、三船敏郎、川島芳子、バスキア、宮城音弥、萩原朔太郎、横山大観、ラフカディオ・ハーン、ルイ・マル、ヒッチ・コック

「これは空想の物語ではない。ただ小説じみているだけである。信じがたい話だからといって本当の話ではないと結論するのはいかがなものだろう」ジュール・ヴェルヌ


人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光りあれ。