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2023年に読んで最高だった本ベスト10冊+読書リスト132冊

こんにちは、つくりおき.jpを運営する株式会社Antway代表の前島と申します。
毎年恒例、今年のベスト本と読書リストの共有をさせていただきます。
今年は132冊読み、沢山の素晴らしい本に出会うことができました。
ベスト本の選定基準としては、人生観や企業経営に関する考え方を大きく変えてくれた本や、知的好奇心を大いに刺激してくれた本を10冊選んでおります。
来年も良い本に出会えますように!🙏✨

早速ですが、もくじです。(記載順序は順不同です)



金 重明 『「複雑系」入門 カオス、フラクタルから生命の謎まで』

知的好奇心を大いに刺激してくれる本は「読んでいてページを繰る指が止まらなくなる」ということがありますが、本書はまさにそうした本でした。
特に「フラクタル」の章が非常にエキサイティングでした。
フラクタルとは「図形の全体をいくつかの部分に分解していった時に全体と同じ形が再現されていく構造」を指しており、以下のような性質を持っています。

  • 相似系で拡大するための次元数が約1.26である(直線の場合1次元、正方形の場合2次元)

  • どの極小部分を切り出しても同じ形になっているため微分の考え方が通用しない

  • 同じ形を無限に繰り返すため、見た目上は有限な図形に見えるが、定義場は無限の周長を持っている

しかも、こうした特性は数学上の机上の話だけではなく、肺の細胞やロマネスコ(ブロッコリーみたいな野菜)など自然界にも存在するのです。

常識が通用しない世界が身近に広がっていることを実感し、深淵を覗き見た気分になりました。


エリック・A・ポズナー, E・グレン・ワイル 『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』

従来、経済学では基本的には既に存在する市場の分析・予測が主な研究対象でした。
しかし、近年では市場のルールを所与のものではなく、積極的に介入し改善していくものと捉え、社会的なルールを自らデザインする「マーケット・デザイン」という学問分野が台頭しています。
こちらの本の著者は、「マーケット・デザイン」分野の中でも特に急激な変更を社会に対して提案しており、当分野の急先鋒と言って良いのではないかと感じます。
本書では一人一票の原則を疑い、個々人がより関心のあるテーマに対して政治的にコミットすることを可能にする「QV(Quadratic Voting)」。
全ての私有財産にオークション制度を導入し、より社会のためにその財産を使うことができる人・税を納めることによって社会還元できる人が財産を持つことを促進する「共同的自己申告税(COST)」など、ラディカルに社会を変えるためのいくつかのルールが提案されています。
実際にQVについては台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏が注目し、政治への導入を標榜しているようなので、実社会に対しても少なからず影響を与えている書籍だと思います。
東浩紀『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』、鈴木健『なめらかな社会とその敵』などルールメイキングによって社会をラディカルに変化させる提案を行っている書籍が好きな方には本当におすすめの一冊です。


ジョン・メイナード・ケインズ 『雇用、利子、お金の一般理論』

社会科学史上の影響力ランキングというものがあるとしたら、マルクスの『資本論』などと並んでトップ5にエントリーする人も多いのではないかと思われるこちらの一冊。ずっと読みたいと思っていましたが、今年ついに読むことができました!
ケインズの文章は読みづらいということで有名らしいですが、日本語訳でも読みづらい上に古典派経済学の知識も必要でいきなり読み出すと難儀すると思います。
僕はまず、同じ訳者が書かれた『超訳 ケインズ「一般理論」』から読んだことでかなりスムーズに読み進めることができました。

内容については、「供給が需要を作るのではなく、需要が供給を作る」(=ニーズが無いと売れない)など現代社会を生きる僕たちにとっては当たり前だと感じるものが多いです。
逆に言うと、それだけケインズが僕たちの常識の礎となっているということだと思います。
また、有名な「株式市場は美人投票である」(=良い企業にお金が集まるのではなく、投機して儲かりそうな企業に集まる)というくだりもこの本の中に登場します。
金融市場が実態経済とは乖離した規模でますます拡大し、トリクルダウンが発生していない日本経済においては、全く色褪せない・ますます輝きを増す一冊だと感じました。


エマニュエル・トッド 『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』上・下巻

こちらは『サピエンス全史』に代表される、人類史全体を一つのフレームワークで捉え直す「グローバル・ヒストリー系」の一つに分類できる一冊だと思います。
トッドの主張を端的に言い表すならば、以下の表のように「家族制度が社会制度やイデオロギーを規定している」というものになります。

引用元:Wikipedia

ジャレド・ダイヤモンド『銃・病原菌・鉄』、スティーブン・ピンカー『21世紀の啓蒙』、ハラリ『サピエンス全史』など人間の生み出した広義の「技術」に着目するのがこれまでのグローバル・ヒストリーの特徴であった中で、家族制度に着目している点が新規性があり面白いと感じました。
また、「家族」ほど人類史に深く・長く関わっている社会制度は無いため、議論としても一定の説得力があると感じました。
一方で、仮にトッドの議論の蓋然性が高いとするならば、現在世界各地で発生してしまっている政治・イデオロギー的対立の根本原因は家族制度にあり、対立の背景となっている思考・思想はそう簡単には変えられないものであるということになります。
議論としては非常に面白いと思う一方で、同時に現実世界の問題の根深さ・解決の困難さを感じてしまう一冊でした。


西垣 通 『AI原論 神の支配と人間の自由』

今年読んだ本の中で、間違いなく最も難解な本でした。
前提として理解しなければならない哲学概念が難しく、複数のYoutube番組や書籍を副読しつつなんとか読み進めていきました。
詳細は省きますが、この本の要旨としては近年ますます社会的に力を増しているAIについて、「AIが神のような万能の力を得ることは、”思弁的実在論”の観点からあり得ない」ということを主張しています。
個人的には(僕の理解不足も多分にあると思いますが)、AI万能論に対する批判としては弱さを感じてしまいました。
一方で、この本の中で紹介されていた「第二の死」という概念については非常に共感を覚えました。
この本の中で度々引用されている哲学者のカンタン・メイヤスーは生物には2種類の死があると言っています。一つは個体としての消滅による死で、もう一つは自己と環境の境目が曖昧になることによる死です。
すなわち、個人の人格においてその人が持っている知識や考え方がまわりの人と区別がつかなくなり、同化すること=死であるということになります。
現代社会において同じYoutubeを観て、同じNewspicksの記事を読んで、Twitterでバズった同じ記事を見ていると、情報ソースが完全に同一化し「第二の死」を迎えることは普通にありえるよなー、と思ったのでした。


ウォルター・アイザックソン 『コード・ブレーカー』

2020年にノーベル化学賞を受賞した、遺伝子編集技術「クリスパーキャス9」および受賞者のダウドナ博士について扱った本です。
ジョブズの伝記を書いたことで有名なウォルター・アイザックソンが書いただけあって、かなり読ませる内容となっております。
ノンフィクションルポのような形式で、ダウドナ博士の生い立ち、クリスパーキャス9の基礎技術の発見、ノーベル賞受賞までについて扱った本ですが、個人的には以下の3点に面白さを感じました。

  1. 遺伝子編集技術がすごすぎる:こんなことまでできるのかと正直かなり驚きました。端的に言うと、特定の遺伝子を狙い撃ちにして、切ったり貼ったりすることが、比較的簡単な技術です。Youtubeで素人がチャレンジした動画が公開されたりするほど容易な技術の模様です。

  2. 生命倫理的な観点で考えさせられる:デザイナーベイビー(遺伝子操作された子ども)の是非を巡って哲学的議論が展開され、マイケル・サンデルやジョン・ロールズの議論が参照されており、かなり考えさせられます。「治療と能力強化の違いとは何なのか?」など今後人類が当面は向き合い続けなければならないであろう問いを提起してくれています。

  3. アメリカの科学界の雰囲気を感じることができる:米国科学界の人間模様がわかって面白いです。特許に関する訴訟が起きまくりで、科学者が訴訟に時間を使いすぎている感があり、もっと研究に集中させてあげれば良いのにと思いました。

IT革命の次はバイオ革命だと言われたりしますが、遺伝子編集技術は今後人類が向き合わなければならないビッグアジェンダの一つであることは間違いないと思いました。


渡辺努 『物価とは何か』

こちらは以下の理由から、すべての経営者におすすめできる一冊です。

  • 物価は売上、原価、販促費、賃金など全ての事業KPIに関わる、企業活動の全てに関わる超重要指標である。

  • 値上げの方針を決める、新商品のプライシングを考える、ポイント還元施策を考える、などなど日々の業務においても物価に対する理解が無いと大損(顧客の離脱、利益チャンスの逸失)を招きかねない。

こちらの本では物価変動の要因を「物価水準の財政理論(Fiscal Theory of the Price Level、縮めてFTPL)」を用いて説明しています。
長くなるので内容は本書をあたっていただくとして、個人的には非常に興味深く読み、以下の感想を持ちました。

  • FTPL理論は市場への政府による貨幣供給を特定の状況においては否定している。すなわち物理的には反ケインズ的(=政府の市場介入を許さない)である。一方で、人々の内面・予想については政府の介入を強めることを推奨しており、精神的には反新自由主義的(=反・レッセフェール)である。単純にはケインズ派にも新自由主義派にも分類できないということで、物質・精神の両面で過去の重要理論を止揚(アウフヘーベン)していると感じた。


川越敏司 『「意思決定」の科学 なぜ、それを選ぶのか』

行動経済学に関する一冊です。
行動経済学と言えば、ダン・アリエリーの『予想どおりに不合理』が超有名で、アリエリーはこの本で人間が不合理な行動をすること、そしてその不合理さはランダムではなく定式化できること(=予想通り)であることを示しましました。
本書は「予想通り」をさらに一歩進めて数式化するところまで踏み込んだ書籍で、行動経済学における数理処理の入門に位置づけられるかと思います。
一見、個々人の個性や人生観に依存しているように思える「意思決定」に法則性があり、かつ数式化できるということ自体が非常にエキサイティングだと感じながら読みました。
個々人のリスク許容度を判定する試験も書籍内で紹介されており、経営者や人事の方は自組織のリスク許容度の分布を測定してみても面白いのではないかと思います。
人間の行動のモデル化に関心がある方には超おすすめの一冊です。


安藤 寿康 『能力はどのように遺伝するのか 「生まれつき」と「努力」のあいだ』

「個人の能力は才能・遺伝で決まるのか、環境・努力で決まるのか」という議論は昔からありますが、そうした議論に学術的観点から一石を投じる一冊だと思います。
この本では上記の答えはどちらか一方ではなく、遺伝と環境の「交互作用」であると述べられています。
また、遺伝の中でも「エピジェネティクス」という環境要因によって「スイッチがON/OFF」になるような因子もあり明確な線引きはできないということでした。
本書の中でも、特に興味深かったのが「平均への回帰」の話です。
たとえば、両親ともに平均よりも身長が高い夫婦と低い夫婦がいた場合、前者に関しては両親よりも身長が低い子どもが生まれる可能性が高く、後者に関しては両親よりも身長が高い子どもが生まれる可能性が高いと言われています。
身長は正規分布様に分布しており、両親の身長によってもちろん低くなる確率・高くなる確率は上がるものの、確率論的には「平均に回帰」する力が働くということなのです。
たしかに、3人以上の多人数の兄弟の場合身長にばらつきがあるファミリーはよく見るなあと思いました。
少し議論が飛躍しすぎかもしれませんが、"自分の子どもであってもなくても結局は平均へ回帰する”というこの考え方が広がることで、「自分の遺伝子を継いだ子どもを育てたい」という欲求が緩和され、特別養子縁組が増加して4万人いると言われている日本の養子縁組を望む子どもたちの未来につながれば良いなと思いました。


ジャン・ボードリヤール 『消費社会の神話と構造 新装版』

学生時代から読みたいと思いつつ、その難解さからなかなか手が伸びなかったこちらの本ですが、意を決してやっと読むことができました!
50年前に書かれた本ですが現代人にとっては当たり前の価値観となった「現代における消費って、物自体の価値ではなくて記号を消費しているよね」的なことを一番初めに言いだした本なんじゃないかと思います。
特に先進国においては物質的な豊かさが飽和し、メタバースや暗号資産を含めた記号的価値消費が隆盛を極める現代社会においては色褪せるどころかますます輝きを増す一冊だと思います。
重厚な本なので色々なことを考えさせられたのですが、僕の中では継続的に考えたいテーマとして以下のような問いが生まれたことが収穫でした。

  • 冷戦後、世界の中で絶対的な価値の対立軸は無くなり、人権を尊重する機運が高まるとともに多文化相対主義が受け入れられたかのように見えた。こうした世界では「みんな違ってみんな良い」的に様々な価値の尊重が起こるはずだが、依然としてハイブランドが流行し、LVMHは過去最大の利益を上げている。この現象をどのように捉えれば良いのか。

  • 著者の言うように、新たな神話を作り出し、存在しない欲望を作りだす行為がマーケティングだとした時に果たしてマーケティングは必要な存在なのだろうか? 新たな欲望が作り出されることにより、新たなコンプレックス・有限な天然資源の利用(地球環境の破壊)・ブルシットジョブの生成といった事象が同時に起こる可能性がある。

  • 著者の主張によると、現代社会における「自分らしさ」「ありのまま」というものは存在しない。 余暇は資本主義社会においてより効率よく仕事をするという目的に絡め取られ、突飛なファッションはスタンダードなファッションを強化し、亜種も含めたファッションカルチャー全体の物語を補強する。 著者の主張を踏襲した場合に、本当の「自分らしさ」というものは果たして追求可能なものなのだろうか。


最後に今年読んだ本のリストを添付いたします。

こちらのnoteを読まれた方に一冊でも良い本との出会いがあると良いなと思っております。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

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