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取締役会議事録を電子化して商業登記が捗った話

コロナの影響を受け、役員陣と顔を合わせる機会も減り、取締役会議事録の押印のために、順番に郵送するという恐ろしく面倒な作業が発生しはじめていたある日、朗報が飛び込んだ。

2020年5月29日
電子署名(クラウドサイン形式)での取締役会議事録への押印が、会社法施行規則の解釈上、法務省に認められた。
取締役会議事録もクラウド型電子署名で—2020年5月29日付法務省新解釈の解説

2020年6月15日
クラウドサイン(弁護士ドットコム)の認証が、商業登記上有効な電子署名として認められた。
法務省が商業登記に利用可能な電子署名サービスにクラウドサインを指定

この知らせを受け、早速、取締役会規程を確認した。取締役会議事録の押印について「電子署名」が認められる表現がなかったため、早速、取締役会に規程の改定について上程した。上記のURL等を添え、取締役会で私から説明することにより、規程の改定及びクラウドサイン運用の了承を無事得ることができた。

登記申請が変わる!

一般的な法務担当者が、登記申請を自前でやっているかよくわからないが、前職も現職も、法務が自分で調べてやっている商業登記の話。自前法務の皆さんの参考になれば幸い。

クラウドサインで取締役会議事録の署名をすることで、明らかに議事録押印作業の手間が減るが、紙の原本が存在しなくなるため、登記実務上は、やりかたが変わってくる。登記事項がある場合は、それ用に、紙の取締役会議事録を作るというケースもありえるようだが、それだとせっかくの電子化が台無しなので、電子署名で残された取締役会議事録を使用することを前提に話を進める。

クラウドサインにより付される電子署名(以下「電子署名C」という。)が付与されたPDFを使用して登記をするには、法務局指定の電子署名(会社の代表印を法務局等に提出して有償で取得する電子署名。以下「電子署名D」という。)を取得して、付与する必要がある。更に、法務局指定の「申請用総合ソフト」というツールにより申請全体に再度電子署名Dを付与して、申請することが求められる。

つまり、①クラウドサインでPDFに電子署名 ②申請用総合ソフトでPDFに電子署名 ③申請用総合ソフトで、申請自体に電子署名 ④申請用総合ソフトで提出 という流れになる。②と③を両方やるのが意味わからなくて最初混乱した。たぶん一回やってみないと分からない。

その他にも申請用総合ソフトには色々癖がある上に、案内ページが分かりづらいので、最初に電子署名を取得して、申請用総合ソフトを使えるようにするまでに諦めたくなる。

難しや電子申請

法務局のページは、案内が散らばりすぎてて非常に分かりにくいが、まずは、ここの「4電子証明書の取得の流れ」にそって対応すれば電子署名が取得できる。これは「電子証明書取得用のソフトウェア」であって、このあと「申請用総合ソフト」というのを別途インストールして使わなければならない。あっちこっちに頁があるので、迷子になりやすい。

私も何度も形式的なミスして、支払い間違いやら二重提出等をしてしまい、法務局の人にも若干うんざりされた(ごめんなさい)。更に、書類によっては紙の添付書類が必要だったり、紙の添付書類で先に用意してしまったものがあったりするので、そういう場合は、電子&紙という二重の処理が必要になってくるので、なかなか高度である。

ポイントとして、①電子署名Dは飽くまでも、代表印の代わりになる電子署名であること、②一部がリアル押印で一部が実印という組み合わせは不可である、というところを抑えておきたい。例えば、各役員の押印がされた取締役会議事録原本(紙)をスキャンしたPDFに電子署名Dだけを付して提出しても認められない。それは、飽くまでも写しであって原本にならないので「原本を送ってくれ」と言われてしまうことになる。

そんなこんなで、いっそ全部書面でやったほうが早いんじゃないかと挫けそうになることもあったが、登記事項の発生頻度が多い会社であったことも幸いし、繰り返すうちにみるみる早くなり、最終的には書面作成もサクっとした上、補正なしの一発で通せるようになった。感動した。

電子申請のメリット

慣れてくると、出せる部分は電子申請で、電子データ揃えづらいのは郵送というのもさほど面倒に感じない。電子で申請して受け付けてもらうと、進捗も確認しやすく、補正もテキストで返してくれるので分かりやすい(大体電話でも併せて連絡くれる)。紙と違って原本還付がいらないのが楽。登録免許税等の支払いも銀行口座からダイレクト納付ができるので、印紙をいちいち買う必要もない。

昔は、いちいち法務局の窓口に言って、事前相談みたいなのを受けてからやっていたものだが、もうそんな必要もなくなった。

他にも書ききれないほどに、申請用総合ソフトの使いづらさはあるものの、とにかく電子申請は慣れれば早いし便利。マイナーなところで言えば、合併契約書の印紙とかも節約できる。最初のとっつきづらさを超えれば、きっと見える世界が変わる。苦痛だった登記業務が楽しくなったぐらいだ。

終わりに

登記は専門家(司法書士)に任せるべしという説も強いのは承知しているが、コスト削減の要請が極めて強い当社においては、ここらへんを効率化して費用削減するのも法務のバリューの一つになるので、ゴリゴリやった。よくあるやつは法務局側にも書式が載っているので、それを見ながらやればいいだけだし、そうでないやつも、あるていど慣れていれば、書籍(新・株式会社の登記実務 145問と書式解説 等)を見ながらやれば大抵できる。新株予約権の登記も思ったほど難しくなかった。ちなみに同書籍は、Legal Libraryに入っている書籍の中で最も参照している書籍である。

合併関連の登記の時には司法書士の助けを借りたが、そのときは司法書士も電子申請に慣れておらず、あたふたしながらも頑張ってくれた(少し教えてあげた)。こういうときに「電子署名はわからないので、できません」とか言う司法書士がいるなら、付き合いたくないなぁ、と思うのだった。





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