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おっと危ない おーいい眺め

神奈川県麻生区にある向原弁天公園は山を削って作られた住宅地にあり、その、地形の都合でどうしても残ってしまった崖のような急斜面にはハシゴと吊り橋とすべり台を垂直並べたような遊具が有る。

あちらから大学生くらいの男性が一人で公園の下の方に下ってゆくのが見えた。公園の下に行くには、崖を迂回する階段を使うか、あるいは件の遊具を通らなくてはいけない。
その男性は迷うこと無く、身をかがめて遊具の道に入っていった。
吊り橋に足を乗せると彼は、「おっと、危ない」と声を出した。
そしてハシゴの所に着くと「おー、いい眺め」と言った。

私が見ていることに気づいていない彼は、感じる事を声に出すことに躊躇が無かったのだろう。
しかし不思議に思うのは、鳥や動物のように思わず出てしまう声は有るとは思うのだけど、どうして人はその後ろにわざわざ説明を付けるのだろうという事だ。自分が一人で見て感じているのに、わざわざ言葉に出して「いい眺め」って、一体誰に言っているのだろう?

それにしても、この「おっと危ない おーいい眺め」の二言は応用範囲が広いと思う。人生のどの範囲を区切っても、あるいは一生を一つの単位として振り返っても、究極的にはその二言で要約出来てしまう。
逆に、この言葉が思わず出てしまう、のぼったりもぐったりする遊具や丘の秘密基地は、人の生きる様そのそもにも見えてくる。

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