見出し画像

メイク・ジャパン・グレート・アゲイン

⚠️おことわり
本稿にはセンシティブな内容が含まれます。閲覧は自己責任でお願いします。






先日、国民的指名手配犯である桐島聡の身柄がついに確保された。と言っても、公安警察が情報を頼りに執念の逮捕を果たしたとかそういう話ではない。末期癌を患い死にかけの状態だった桐島本人が素性を明かしてようやく身柄が確保されたのだ。
さて、この衝撃的な出来事を通じて明らかになったものが桐島の行方の他にもう一つある。それは、全国指名手配犯について50年もの間生死すら掴むことができず、終ぞ自力で逮捕することができなかったという公安の無様な姿だ。そして残念ながら、この件に限らずここ数年の公安はその存在意義が疑わしいほどには無能さと危険さを露呈させている。

まず指摘したいのは、公安の旧態依然とした行動原理である。先述の桐島聡の話とも繋がるが、半世紀以上前の日本では確かに極左や新左翼の動きが活発であり、1960年代前後の全盛期には数多くの実力闘争が行われていた。この時代であれば、公安が左翼系組織を重点的にマークしたというのも無理からぬ話であろう。しかし、こうした運動は山岳ベース事件に代表される内ゲバ、連続企業爆破事件に代表される過激なテロ事件が世間の耳目を集めたことで世論の支持を失って退潮していき、21世紀になった現在その影響力は見る影もない。その一方、新左翼運動衰退以降日本のテロ事情(テロ事情って何?)は複雑化し、もはやテロ=左翼という図式は成立しなくなっている。地下鉄サリン事件をはじめとするオウム真理教が起こした事件がその代表例だろう。
しかしながら、公安にこのような情勢の推移に対応しようとする意識は無いように思える。

出典:現代ビジネス

警視庁公安部の組織図を一例として挙げるが、このうち「公安総務課」から「公安第三課」までの四課が国内問題の捜査を担当している。だが第一課が新左翼の流れを汲む「極左暴力集団」、第二課が労働紛争議と革マル派を捜査対象とし、公安総務課の1〜10の捜査係の中3〜6が反戦デモ、7〜10が左翼政治団体の監視とその捜査リソースの大部分が左翼系に割かれていることがわかる。総務課の一部と第三課が残る右翼系やカルト団体の捜査を全て担っており、左翼運動全盛期にはこの編成でもよかったのかもしれないが現在では完全にアンバランスで、世情に全くそぐわない。第二課の人員削減がなされたり総務課の捜査対象が拡大していたりと昔と今では事情が異なることくらいは公安部も理解しているはずなのだが、未だ抜本的な改革はなく昔のままである。

時代錯誤かつ適法性の危うい捜査手法も問題だ(というより筆者はこの点が最大の問題と考えている)。先述のような情勢の変化があっても尚公安は左翼の取り締まりに熱心であり、まあ100歩譲ってそれは仕方ないと目を瞑るとしてもその捜査手法には大きな疑問が残る。

このツイートでも言及されているが、公安は左翼系の活動を行う学生を監視(有体に言えば尾行)しているとされている。しかし、これは何とも滑稽な話だ。日本国憲法で思想・良心の自由及び表現・集会の自由が保障されているにもかかわらず、何の罪も犯していない学生を「左翼だし、危険そうだから」という理由でつけ回していることになり、本来違憲の誹りを免れないはずだ。であるにもかかわらず、この手法がれっきとした国家公務員たる公安警察官の捜査として罷り通っていることは大いに疑問である。付け加えるまでもないことだが、「左翼はもうそんなに危険じゃないから監視するな」というわけでは当然なく、「思想を理由に国民を監視するな」という話だ。仮に監視対象が極右であったとしても、それを理由に未だ何の罪も犯していない国民を尾行し監視するなど許されない暴挙である。

また学生の他に公安は日本共産党も監視対象としている。しかし合法な公党を罪状なく監視することは特定政党の弾圧に等しい行為であり、民主主義国家においては不当極まりないことだろう。「共産党は破防法の監視対象だから」という文言から始まる共産党悪玉論はインターネット上でありふれたものとなっているが、これは権力側に善悪判断を委ねた非常に危険な発想であると指摘せねばならない。国家権力が自己都合のために法を恣意的に運用して不当な抑圧・弾圧を行う例が歴史上(あるいは現在の世界でも)数多く存在していることからもわかるように、国家権力の善悪判断基準は断じて絶対的かつ普遍的なものでなく、むしろ非常に容易く捻じ曲げられることは留意しておく必要があるだろう。共産党に反対する諸兄は、是非とも「国がダメって言ってるからダメ」から卒業し、自らの論理で共産党を否定してほしいものである(同じ理由で「共産党は海外では非合法」という理屈も論外である。そもそも非常に誤謬の多い理屈だが)。

話を戻すと、公安の捜査手法の問題は不当な監視だけではない。公安はしばしばこうした監視対象を拘束し取り調べる口実のためいわゆる微罪逮捕を繰り返している。その典型例が俗に「転び公妨」と言われる手口で、警察官が相手に突き飛ばされたふりをしてわざと転び、それを理由に相手を公務執行妨害で現行犯逮捕するというものだ。言うまでもなく警察権力の濫用であり不当逮捕・冤罪の温床であるにもかかわらず、公安は「監視対象」に対して転び公妨を平気で多用する。こうしたやり口が現れた例としては2020年に日本共産党の山添拓議員が書類送検された一件がある。「撮り鉄」として知られる山添議員はプライベートで鉄道写真の撮影のため秩父に出かけていたが、その際地元住民が利用している勝手踏切を通行可能な道と勘違いして横断したことで、鉄道地内に立ち入ったとして鉄道営業法違反容疑で書類送検されたことがあった。「勝手踏切」とあるようにその場所は地元住民が日常的に横断しており黙認状態だったにもかかわらず、一度横断しただけの山添議員をこれを理由に書類送検したというのは明らかに異様である。この件は書類送検に留まったが、友人のクレジットカードでバスのチケットを買ったら詐欺として逮捕されたとか、普通の人であれば到底逮捕に値しないような理由で左翼系の人物が逮捕される例は少なくない。


最後に、公安警察の近年最大の汚点に触れようと思う。それこそが大川原化工機冤罪事件だ。

そもそも犯罪が成立しない事案について、会社の代表者らが逮捕・勾留され、検察官による公訴提起が行われ、約11か月もの間身体拘束された後、公訴提起から約1年4か月経過し第1回公判の直前であった2021年7月30日に検察官が公訴取消しをしたえん罪事件。

大川原化工機事件(日本弁護士連合会ホームページ)

日本弁護士連合会のホームページでもこのように断じられている通り、この事件は通常であれば考えられないほどお粗末な冤罪事件である。まあ詳しくは各自で調べて欲しいのだが、簡単に説明すれば規制を満たしている製品を輸出したのに公安に「軍事転用可能な機械」と言いがかりをつけられたのだ。このでっち上げられた事件によって会社幹部の3人は約一年にわたり不当に拘束され、そのうち1人は癌を患ったにもかかわらず勾留のため適切な治療も受けられずにそのまま病死した(本筋とは関係ないが、勾留中に適切な治療を受けられないことそれ自体も極めて深刻な問題である)。公安は杜撰な捜査を重ね捏造まで行い事件として成立させようとしたわけだが、なぜこのような暴走が起きたのか。その背景として、経済安全保障政策を推進しようとしていた政府の意向があったと言われている。すなわち、公安が政府の意向を「忖度」し、言わばポイント稼ぎのために無理な事件をでっち上げたということになる。実際、当該事件の捜査を主導した警部は警視に昇進したようだ。政府の意向を忖度して尻尾を振ってしまう警察組織ならば、極端な話、もし外国人の隔離政策をするとかが政府の意向であっても今回のように忖度し捏造し積極的に加担してしまうのか。そのような危機感も拭えない。いずれにせよ、大川原化工機冤罪事件は公安の腐敗した体質と常軌を逸した捜査手法、そのどちらもが高度に濃縮されて生まれた最悪の産物であり、現在の公安警察の無能で有害な有り様を如実に物語る事例だ。この事件に巻き込まれた会社幹部2人は現在損害賠償を求める訴えを起こしており、既に一審でほぼ全面的な勝訴を勝ち取った。しかし嘆かわしいことに、国と公安はこの判決を不服とし控訴している。これほど重大な不祥事を起こしておきながら、反省の色も見えないことにはつくづく暗澹たる気持ちにさせられる。

ここまでの話をまとめると、公安警察は旧態依然とした体質から脱せておらず、国民の権利を侵害する捜査を平気で行い、政府に阿るために事件のでっち上げにすら手を染め、そのくせ全国指名手配犯一人捕まえることもできない超無能極悪組織ということになる。無論こういう大雑把な総論では括れない面もあることは理解しているが、筆者には今の公安がその使命を果たせているとは到底思えない。某国民的推理漫画に登場する白髪の捜査官の爪の垢でも煎じて飲むか、それすらできないならいっそ解体してその分の人員で民間企業にでもあまくだり就職して納税した方がよっぽど日本に貢献していると言えるだろう。誠に遺憾ながら日本のGDPは停滞し人口で劣るドイツに抜かされる事態となっているが、公安の優秀な人材が然るべき職場に就職すればきっとまた追い返せるだろう。今こそメイク・ジャパン・グレート・アゲインと叫ぶ時だ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?