Break down wall ~「VOCALOIDと歌ってみた」の世界~
(以下の文章は11月19日から22日にかけて行われた弊学文化祭にて、僕の所属するボカロサークルが発表したオンライン部誌『VocaLeaves』に僕自身が寄稿した文章です。)
はじめましての人ははじめまして、Klayn(くらいん)と申します。普段はボカロを聴きいたり、たまに音楽を作ったりしています。
いつも一緒にボカロを聴いている仲間たちと部誌を出すと決まったとき、「これは僕の愛好しているジャンルを内外向けに布教できるチャンスなのでは?」と思い、あと締め切りまで2時間というギリギリの時間帯にのうのうと序文を書いている次第であります。モチベーションを途中で殺さないように気をつけながら息継ぎ無しの全力で書き上げますのでお読みになる方もどうか最後までお付き合いください。
さて、突然ですが皆さんは「VOCALOIDと歌ってみた」というジャンルをご存知でしょうか。
「VOCALOID」と「歌ってみた」ではありません。ニコニコ大百科によると、「VOCALOIDと歌ってみた」とは「メインボーカルまたはコーラスに、人とVOCALOIDの音声をあえて共に入れたオリジナル曲やカバー曲のこと」と記載されています。『ロキ』や『ガランド』を例に挙げれば想像がつく方も多いと思います。
今回は「VOCALOIDと歌ってみた」の魅力や深み、可能性を曲紹介と共にお届けします。
以後常体で失礼します。
1. ブレイクアウト!/LOLI.COM feat.タイツォン
https://www.nicovideo.jp/watch/sm5651671
「VOCALOIDと歌ってみた」を語るにおいて外せない初期の名曲。「VOCALOIDと人間のVOCALを共存させる」というコンセプトの元、歌い手のタイツォンが初音ミクと共に歌い上げている。
「お願い ホントは キミにそっとそっと触れたくて」というリリックは合成音声と人間との間にある違いや壁を明確に意識させつつ、その歌詞を「共に歌い上げる」ということでその壁を打ち壊す力をも感じさせてくれる。
今まで直接的に関わらなかった「VOCALOID」と「歌ってみた」というジャンルの壁を壊し、新たなジャンルをそのタイトルの通り「ブレイクアウト」した一曲。
2. Days/Easy Pop feat.96猫
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34671136
歌い手の96猫とVOCALOIDカバー師・調教師のおればななによるユニット「96バナナ」によるデュエット曲。作詞・作曲は『ハッピーシンセサイザ』などの楽曲で知られるEasy Pop。
おればななによる鏡音レンの良調教と96猫の比較的低音ながらも可愛らしい声、そしてEasy Popによる二人の掛け合いが光る歌詞がマッチした非常に尊い楽曲である。
3. 動物のすべて/ピノキオピー
https://www.nicovideo.jp/watch/sm29728097
ここからは作曲者が自らVOCALOIDと共に歌っている楽曲を紹介する。
ピノキオピーは自身の楽曲でよくコーラスを務めているのでピノキオピーのボカロ曲からピノキオピー自身の声が聞こえてくることはそこまで不思議ではないのだが、この楽曲はもはやVOCALOIDの声と人間の声のどちらがコーラスか分からないほど声の音量バランスやパート分けが均等になっており、「合成音声と歌う動物の曲です。」という動画説明文にもある通り、初音ミクとピノキオピーのどちらもが主役と呼べる楽曲となっている。ピノキオピーらしいナンセンス風の歌詞にも注目。
(ちなみに余談だが、この記事の序文にはピノキオピーを意識して書いた箇所がいくつかある。読みながらお気づきになった方は居ただろうか。)
4. 人間だった/ピコン
https://www.nicovideo.jp/watch/sm32134306
「動物」の話をしたので次は「人間」の話をしよう。『ガランド』で知られるピコンはこの曲が発表された2017年頃から自らの声を楽曲に取り入れるようになった。
淋しさや切なさを感じさせる音使いはこれからやって来る冬にぴったりである。落ちサビの「花 花 花が散ってる」というフレーズで人間パートの音程がVOCALOIDパートに比べて少しずれる箇所では、VOCALOIDの声の安定感と人間の声のゆらぎが対比されている。
5. ミッドナイト・プール/cat nap
https://www.nicovideo.jp/watch/sm31315520
主に作曲を担当しているねこむらと主に作詞を担当しているねこみによるユニット、cat napによる楽曲。初音ミクと共に歌っているのはねこむらである。
タイトルの「ミッドナイト」に似合うローテンポで落ち着いたサウンドと、二人の声のシンクロ感がとても心地よい。ラスサビ前の「ぼくのかわりのきみのかわりのぼく 今宵、今宵、音になる」の掛け合いは必聴。
6. 二◯二◯年/浮浪人、異形、震える舌
https://www.nicovideo.jp/watch/sm36397674
浮浪人(Tachibuana)、異形(anoinbae)、震える舌(松傘、ミク)による合作。
重厚感のあるビートの上で人間の声と合成音声が代わる代わる畳みかけるラップはリスナーをミックホップの深淵にいざなってくれる。震える舌のバースでは画伯(松傘)と初音ミクが表裏一体の存在として描かれており、その演出は何度聴いても鳥肌が立つ。
7. Let Me Take You/banvox
https://www.nicovideo.jp/watch/1517917268
兵庫県出身の人気トラックメイカーであるbanvoxが、ゲーム『#コンパス 戦闘摂理解析システム』のために書き下ろした楽曲。
完成されたダブステップ調のサウンドと疾走感のあるビート、そしてbanvoxの声とその1オクターブ上をなぞる初音ミクの声の独特なハーモニーが魅力。前述の通りbanvoxと共に歌っているのは初音ミクなのだが、動画のクレジット上では「VOCALOID」と表記されており、ライブラリのアイデンティティに当たる部分が削がれている点も興味深い。
8. ray/BUMP OF CHICKEN
https://www.youtube.com/watch?v=yT_ylSCgY6Q
言わずと知れた国民的バンド、BUMP OF CHICKENが2014年に初音ミクとコラボして発表した楽曲。初音ミクの調声は『Packaged』、『Tell Your World』などの楽曲で知られるlivetuneのkz。
ボーカルの藤原基央と初音ミクにそれぞれのソロパートが用意されていたり、ハモリのパートを二人が交互に歌ったりするなど、初音ミクを単なるゲストではなく「もう一人の主役」として成立させている所には感動せざるを得ない。
最近では音楽ゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」に、BUMP OF CHICKENと同じ「幼馴染4人によるバンド」という設定を持つバンド「Leo/Need」によるこの楽曲のカバーが収録されたことでも話題となった。
9. とりあえずアナタがいなくなるまえに/椎名もた
https://www.nicovideo.jp/watch/sm35385342
2015年に20歳の若さでこの世を去ったボカロP、椎名もた。そんな彼が生前残していたデモに、彼と親交の深かったアレンジャーのチーターガールPが出来得る限り素材をそのまま使用して編曲し、4年後の2019年に発表した楽曲。
4年越しに耳に届く「もたさん家のミク」の声と2番の途中から入る椎名もた自身の声、その2つが重なって歌われる「アンコール! そう聞こえた気がしたさ」というフレーズは4年前にタイムスリップしたか、もしくは天国からもたさんが歌っているような感覚に我々を包みこむ。感涙必至。
10. 君は大嫌いな8月に、涕のように落ちてゆく/しじま
https://www.nicovideo.jp/watch/sm31843688
初音ミクが発売10周年を迎えた2017年8月31日に投稿されたしじま(紫嶌開世)による楽曲。タイトルのボーカル表記にある「ハテナ」とはしじま自身であり、初音ミクとしじまによるデュエット曲となっている。
初音ミクの歌うパートは「君の描いた絵本の夢を叶える魔法」などのフレーズなどから分かる通り、しじま自身の初音ミク観を初音ミクの視点で描いており、そこに自身の声や自作のイラストや映像、リスナーから募集した画像によるモザイクアートが重なることで、彼や彼を中心とする初音ミクファンによる初音ミクへの精一杯の愛が美しく、力強く表現されている。お聴きになる方は是非映像も併せてご覧いただきたい。
以上10曲を通して「VOCALOIDと歌ってみた」について語りました。この記事が少しでもこのジャンルのことを知る助けになれば、また1曲でも気になる楽曲があれば幸いです。
タイトル引用:Break down wall mic relay/SICKHACK他
https://www.nicovideo.jp/watch/sm31533010
ニコラップ作品であるが、参加者のToreroが自身のバースで合成音声(鏡音リン、GUMI、巡音ルカ、初音ミク)を使用している。
協力:出水(@yzm39n)
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