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ユウガオの里で夕去りの茶事

お誘いいただき、下野のさる茶室にて夕去りの茶事。認識していなかったが、下野の国はかんぴょうの生産量日本一のユウガオの里だとのこと。床には畑から来たという見たこともない野生的なユウガオが生けられ、まだ日の高い15時に席入りして初炭、懐石、薄茶、濃茶と進んでいくうちに、蕾からゆっくりと花開くユウガオの凄みあるさまを間近に見ることができた。まさに「夕去り」を堪能する贅沢なひととき。

夕去りの茶事は黄昏時の前後に行われるため、初座が「陽」となり、床の間には花が荘られる。ユウガオというと、真っ白な可憐な花が一輪、竹の花入れなどに生けられた風情を思い浮かべるが、このエネルギーに満ちたユウガオはそれまでの私のこの花に対するイメージと全く違っていた。

シュルシュルと音をたてて伸びていきそうなツルの勢いは、安房直子さんの『野の果ての国』という童話を思い出させた。サヨという農家の娘が行商人からもらったヘチマの種を蒔くと、どんどん伸びていって黄色の花が咲き、サヨを野の果ての不思議な国へと誘う。ユウガオの花には蛾がくるというけれど、まさに逢魔が刻、どこか遠い国へいざなわれて帰って来れない、そんな気持ちがした。

中立ち後、後入りは「陰」となるが床の間には軸ではなく能面。え、これはまさか源氏の『夕顔』の趣向ですか、六条御息所の生き霊に取り殺されてしまう夕顔の物語。。

儚げな夕顔の君だけど実は源氏の親友、頭の中将とも二股かけていた小悪魔的なところもあるので、そのアンビバレンツな感じが真に迫ってきてちょっと震える心地。
極め付けは、お茶杓がなんと裏千家八代又玄斎一燈の「玉鬘」。夕顔が産んだ頭の中将の忘れ形見で後に源氏に求婚されて苦境に陥るのが玉鬘。ご亭主によると、能面は娘の玉鬘を意図したとのこと。
非常に華奢なお茶杓で、二代にわたって恋愛に翻弄された二人の女性について思いを馳せてしまった。

そのユウガオの花は、ちょうどそんな話が盛り上がるつづき薄茶の時分に開花。

懐石のお碗にも冬瓜かと思いきやユウガオの実をアク抜きを重ねて用いられたとのことで、その一貫したおもてなしには頭が下がる。
番外として一休様のお軸、黒薩摩の茶入、道入の楽、朝鮮唐津の数々とお道具も時を遡る名品ばかり。
なんとも贅沢な夕去りの茶事でした。

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